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医師におすすめの一般書籍2

日々臨床に忙殺されていると、インプットが専門分野の実用的内容に偏ってしまいがちですが、あえてインプットを変えてみると思いがけない発見や学びがあり、月並みですが多読の重要性に気づかされます。

前回と同様に、最近読んだ本のなかで興味深かった一般書籍を5冊ピックアップし、感想がてら紹介していきます。



経済学を知らずに医療ができるか!?

医療経済に関する本です。現代の医療の経済的問題点を浅く広く網羅しており、教科書的な位置づけとして勉強になりました。おそらく医療経済というものを学ぶ上では最低限の前提となる知識になるかと思います。
それぞれの問題に対する洞察や具体的解決策は提示されていないので、基礎を知るという意味でさらっと読むのがいいかもしれません。


武器になる哲学

哲学は社会人になってから触れるようになりましたが、抽象的ゆえに汎用性が高く、時間がたっても色あせない貴重な学問であり、学生のときにもっと触れておけばよかったと思います。
では実際に哲学をどのように解釈し日々に生かせばよいのか、という具体的な事例をひたすら列挙してくれるのが、山口周さんの武器になる哲学です。
例えば、アインヒマン実験から、主体者の責任が曖昧になると良心の働きは弱くなるという解釈を提示し、組織的隠ぺいや偽装は分業によってなし得るというような結論にもっていく、というような具合で話を展開していきます。
この一連の工程を学ぶうえでも参考になる本でした。


バカと無知

主張に対して用いられる根拠の使い方や繋ぎ方は、その作者の技量が如実にでますが、橘玲さんはその筋道がシャープで破綻なく結論に切り込める稀有な作家だと思います。
バカと無知は「言ってはいけない」シリーズ3作目で、週刊誌の連載を集めて作られた本のため、全体としてはまとまりがないのですが、短編集として気軽に読めるとも言えます。「読まなくてもいい本」の読書案内 は橘玲さんの最高傑作だと思いますが、咀嚼するのに大変骨が折れる本のため、このような気軽なシリーズも個人的には好きです。
本作で一番心に残ったのは下記の " 陰謀論で解釈するのが当たり前 " という箇所で、これは逆転的な考察でした。

 SNSには陰謀論が渦巻いている。そのなかには、世界は「闇の政府(ディープステイト)」に支配されているとか、新型コロナワクチンを接種するとマイクロチップを埋め込まれるというような荒唐無稽なものもある。
 ひとびとが誤解しているのは、これをなにか異常な事態だと思っているところだ。そうではなく、ヒトの本性(脳の設計)を考えれば、世界を陰謀論(進化的合理性)で解釈するのが当たり前で、それにも関わらず理性や科学(論理的合理性)によって社会が運営されている方が驚くべきことなのだ。


限りある時間の使い方

時間と人生について書かれた本ですが、私がこの本のポイントだと思うのは第1章の時間の概念に関する考察です。

産業革命は一般に、蒸気機関の発明によって起こったといわれる。だがルイス・マンフォードは1934年の大著「技術と文明」で、おもしろいことを指摘している。産業革命は、時計なしでは決して起こらなかったというのだ。

時間単位で金銭を発生させる労働(賃労働)というものは決して人類にとって " あたりまえ " の概念ではなく、時計による時間の共通言語化と産業革命が結びついて生まれた比較的新しい概念である、というのは現代のあらゆる事象の前提知識として極めて重要だと思います。「ブルシット・ジョブ」でも同じような文脈で時間の話が展開されますが、また違う味わいがありました。


アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した

アマゾンに対して批判的な本がアマゾンで売られているのが興味深く、まとめ買いで積んでおいたのですが、最近読んだ本のなかでは断トツに面白いものでした。
この本は、アマゾンの倉庫、訪問介護、コールセンター、ウーバーの仕事現場へ著者が労働者として潜入し、そこでのリポートを一冊の書籍にしたものですが、そこでの労働者の描写が秀逸でした。個人的には考察が残念だったのですが、それでも読む価値のある本だと思います。
色々な解釈がされてしまう本だと思うのですが、単純な「被雇用者 vs 雇用主」の構図でだけでみるのは大変もったいないと思います。
感想も書いていますので興味がありましたら。


感想やおすすめ書籍がありましたら、ご教示いだだければ幸いです。

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