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VCが教える「事業計画書」の書き方。【創業シミュレーション・後編】

Spreadは、起業・スタートアップやデジタル・新領域ビジネスについて「知る・学ぶ」ことを目的としたメディア(Spread magazine)と、それに連動するイベント・コミュニティ、そして今後リリース予定の「新規事業創出を実践するプログラム」からなる、大学生・若手社会人をターゲットとした新規事業創出プロジェクトです。

magazineでは、起業に必要な知識を丁寧に紐解きながら、誰でもスタートアップを身近に感じられるような情報や、自分も!と飛び込んでみたくなるようなベンチャーシーンの熱い空気感をお届けします。

今回は、前回に引き続き「創業シミュレーション」編。実際にあるサービスを例に置き、そのビジネスで資金調達をするならと仮定。事業を自走させるために必要なステップについてVC設立者である大久保徳彦さんとのロールプレイの中で順を追って解説します。資金調達を目指すためにすべきことって?事業計画は必要?等々、各回を通じて理解が深まる連載企画です。

後編では、サービスの値付けの方法や、VCとのディスカッションの核になる「事業計画書」の書き方について伺いました。ぜひ、最後までご覧ください!

前編はこちら▼
https://note.com/spread_magazine/n/nfa2f9b2f5577

\ゲスト/ 岡本大樹
北海道大学 獣医学部 獣医学科中退。北海道大学 医学部 医学科入学後、IT企業で1年間社員として働く。起業家育成プログラミングスクールG’s ACADEMY 札幌1期生。TORYUMON ZERO3期生。北海道大学公認の北大医学部起業部を2021年4月に共同で設立。「一人ひとりが自信を持って医療と関われる世界」を作るため、患者さんの手元に医師の説明が残るサービスを開発中。

大久保徳彦
株式会社POLAR SHORTCUT 代表取締役 CEO
北海道帯広市出身。慶應義塾大学を卒業後、新卒でソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)に入社し、プロジェクトリーダーとして多くの新商品企画や新規事業推進プロジェクトに従事。その後、動画制作のスタートアップ企業 Crevo株式会社にて、経営企画・人事・財務・新規事業開発領域をNo.2として統括。2020年4月に札幌へ拠点を移し、北海道の成長産業・ベンチャー支援をテーマとして株式会社POLAR SHORTCUTを創業。2021年4月にベンチャーキャピタルファンドを組成。

いけだみほ

北海道札幌市出身。北海道大学在学中。アルバイトスタッフとして札幌市内コワーキングカフェバーで働きながら、ライターとして活動中。

▽今回のテーマ。岡本さんの手がける事業

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Handnote:医師と患者のコミュニケーションの課題に着目。医師の説明を家に持ち帰ることができるサービス。

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自分たちのサービスに値段をつける

いけだ:さっそく「事業計画書の書き方」について伺っていきたいのですが、その前に気になることが......。事業の計画の話、お金の話を詰めていくなら、自分たちのサービスの値段をいくらにするのか、というのはきっとはじめに決めておかなけければいけないものですよね?

大久保:そうですね。ざっくりとした見積もりでも良いので必要かな。

いけだ:まだ無いものに金額を見積もる、サービスの値付けの話が気になります!岡本さんは事業計画書はこれからというお話でしたが、サービスの値付けについては具体的な数字を付けてみたことはありますか?

岡本:あります!今は、月10-20万円くらいで買ってもらうのが良いのかな、と考えています。

約1万円と言われているお医者さんの時給を考えて算出しました。医師の時間外労働ランキングというものがあるのですが、患者さんへの説明に使う時間が第3位。もちろん全部とは言いませんが、僕らのサービスでその3分の1でも時間を短縮できたら病院にとっても利益ですよね。だから、そこのお金を狙って見積もりました。

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いけだ:なるほど。大久保さん、実際他のサービスで値付けをする時も、このような組み立て方をするんですか?

大久保:かなり色んな方法があるので一概には言えないのですが、考え方としてよくあるのは岡本さんのようにそのサービスにできることを時間やお金で見積もって、顧客のお財布を考えながら金額を決める方法。あとは、競合のサービスがあればそれを参考に値付けをしたりしますね。

いけだ:岡本さんのサービスって競合になる企業がもう既に出てきているんですか?

岡本:全く同じでなくても、近いものは沢山ありますね。ただ対象とする診療科が違ったり、見ているステップが違ったり......。

いけだ:ステップ?

岡本:サービスを作るために「診療」を細分化すると、いくつかのステップがあるな、というのが最近見えてきたんです。具体的に言うと、①問診 ②検査 ③検査結果・状態の説明 ④治療法の説明 の4つ。問診の部分は、たまに聞く「オンライン診療」などの言葉で既に競合となる大企業が数十億円をかけて開発しています。

そう考えると、まだ余白があるのが③検査結果・状態の説明と④治療法の説明 の部分と考えています。もちろん患者さんによっても異なるから、検査結果の説明の部分的なサポートと、同じ症状や手術で説明が重なる初期療法の説明は、比較的スタートアップが入りやすい場所なんじゃないかな、と考えています。

大久保:競合の話もよく聞かれると思うんですけど、今みたいに医療系のサービスと言えどこういう違いがあって、診察のステップの中でここのサポートをしている所って実は無いんですよ!みたいな話ができるとすごく良いですよね。

いけだ:そういったことって、自分でとことん調べたり、サービスが使われることになる現場の方のお話を聞いて少しずつわかるようになっていったんですか?

岡本:そうですね。自分が医学生ということもあるんですけど、医師の方にお話を伺ったり、家族が診察を受けるタイミングがあれば実際に使ってもらったりしながら、掴んでいったことだと思います。

大久保「顧客の課題を突き詰めれば、おのずとソリューションは見えてくる」という話をよくさせてもらっているのですが、岡本さんのようにとにかく話を聞きにいったり、実際に使ってみたりするうちに、開発したサービスの独自性が新たに見つかることも多いです。それができると、競合がいても自分たちのアイデアに適切な値段を見積もることができますね。

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事業計画書の書き方

いけだ:では、競合も調べたし、その上で自分たちのサービスの値段も付けた!という状態を仮定して「事業計画書」の書き方が知りたいです!

インターネットからダウンロードできる事業計画書のテンプレートを見つけたのですが、これが一般的な型ということですかね??

大久保:(テンプレートを見て)これは、「事業方針」「収支計画」がセットになっているものですね。創業初期の資金調達だとまだ重要ではない欄も多いので、書くためのポイントを整理してみましょう。

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引用:bizocean事業計画書テンプレートhttps://www.bizocean.jp/doc/detail/104478/#buy

大久保:このテンプレートって事業計画書の中でもかなりしっかりした方なんですけど、銀行などの金融機関からの借入を前提とした事業計画の相談だと、こういうフォーマットで出てくることは多いです。

実際は、左側の事業方針・計画概要と右側の収支計画は全然別物。左側は、サービスを作っていれば書けるようになるから、コツと言えば前編で話したサービスや顧客解像度の話になるかな。VCの言う「事業計画」はどちらかと言えば右のイメージです。

いけだ:そうなんですね、逆だと思っていました......。

大久保:収支計画の中にも項目があって、大きく分けるとP/L(損益計算書)B/S(貸借対照表)の二つ。P/Lは経費や損失などを差し引いて、一年の中でどれだけ利益が出るのかを示すもので、B/Sは会社がどのくらいの資産を持っているのかをまとめたものです。立ち上げたばかりのスタートアップって、何か大きな資産を持っていることは少ないので、B/Sは正直あまり書けることはありません。

となると、重要になってくるのはP/Lの計画。このテンプレートで言うと収支計画表の部分にあたります。この表は少し細かすぎるのですが、どんなケースでも一番大切なのが①の売上高。次に重要なのが ②の売上原価③売り上げ総利益が続きます。④以降ばーっと書いてあるけれど、その部分は結局⑩の経費の合計がわかれば十分です。

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大久保:スタートアップの場合って経費の合計のほとんどを占めるのが人件費なんですよね。なので、基本的には人件費の算出が出来れば経費も自然と浮かび上がってきます。

ただ……こうやってシンプルに言っても経費のことを色々考え始めると沼にハマるので(笑)。ディスカッションを通じて決めていくのももちろんアリだし、あまり考えすぎなくてもいいんじゃないかな、と思っています。

いけだ : 沼があるんですね、確かに複雑そう…。

大久保 : 1番重要な①の売上高に関して言うと、「価格設定が1顧客あたりいくらで、それを何人に売っていく想定なのか」という話を聞きたいです。

実際に数字を入れて事業計画を書いてみると、思っていた売上高を挙げるためにはものすごい数を売らなきゃいけない!と発覚するケースがよくあります。1000人に売っても全然プラスにならないじゃん!みたいな。となるとそもそも価格設定が間違っているか、市場としてあんまりイケてない、ということも事業計画を作ることでわかりますよね。

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いけだ:価格設定は、岡本さんと話した「サービスの値付け」の話に直結するものですよね。

大久保:そうだね。今10万円くらいの単価を想定しているのであれば、VCとのディスカッションで最初に聞かれるのが「何でその価格なのか」という話。さっきのように競合や、自分たちのサービスのポテンシャルの話をされると納得できるし、その次に「何人くらいに売れるのか」「毎月お金を払ってもらうのか、売り切りの商品なのか」という細かい想定に移ることができます。

いけだ:これから売る商品に関して「何人が使ってくれそう」って検討を付けるの、難しくないですか??

大久保:確かに難しいのだけど、お客さまのことをきちんと調べたら少しずつ見えてくる話ではあります。

例えば岡本さんだったら、一番最初は北大病院に導入してもらおう!という戦略を持つかもしれません。北大病院に医師が何人いるのかは調べればわかるし、現場でコミュニケーションをとっていると何となく温度感がわかってきて、全員でなくても何割くらいが使ってくれそうか想像できるようになります。100人医師がいたとして、購入してくれるのは30人くらいと仮定できると、自動的に月次の収益の検討もつくようになりますよね。

そこから、札幌には北大病院の他に病院がいくつあって、医師が何人いるのか。札幌だけじゃなくて北海道全体だとどうだっけ?という風に話を広げていくこともできます。北大病院以外にはいつから売り出し始めるのか、その後に北海道全体に展開するのか否か。そういう「売り方のイメージ」ができると、おのずと今後の計画も見えてくるようになるんです。

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大久保:みほちゃんが言う通り、何もない状態から闇雲に事業計画書の項目を埋めていこうとするとすごく難しいのだけど、こうやって最も大事なポイントや考える順序がわかれば、そんなに苦しい作業にはならない気がします。今みたいな話を岡本さんが聞けば、後はもう普通に作れちゃう気がしますね。

岡本:市場の計算は頭に入れていたのですが、確かに何人のお医者さんを口説けるか、という点も大きなポイントになると今のお話を聞いて感じました。その部分も戦略を立ててやってみようと思います!

いけだ:実際大久保さんが投資検討する人とのディスカッションもこんな感じですか?

大久保:そうですね、今みたいな話を続けてどんどん細かくしていくイメージです。

いけだ:私が会計について何も知らないからだと思うんですけど......見積もりに見積もりを重ねているような気持ちで、どんどん答えがわからなくなっていきそう。自分で書いていて不安になってしまいそうです(笑)。

大久保:サービスがまだ走りだしていない以上正解は無いですし、どれくらい確からしいのか、という曖昧な所をどれだけ諦めずに追求できるかが説得力のある事業計画を作るための鍵になってくるかもしれませんね。

色々注意点をまとめて言ってしまったのだけど、ほとんどの項目は後からいくらでも変えられるので、とにかく①。売上高の部分をどれだけ解像度高く見積もれているか、というのが事業計画書の書き方の全てです。


一旦立ち止まって考える。投資と融資の話

いけだ:ここまで話してきて大久保さんのリアクションを見ていると、何となくもう岡本さんのサービスに投資のGoサインが出てもおかしくないんじゃないかな、と勝手に思ってしまいました。投資を実行するという決断が出るために、後はどんな情報が必要になりますか?

大久保:でも、基本的に今日話してきた情報が全部です。このインタビューの場でなく、実際にキャピタリストと起業家という関係性でお話させていただくなら、初めて会う時にまずサービスの内容だけで1.2時間話します。そこで、このサービス何だかいけそう!と思ったら市場のポテンシャルや事業計画の話を細かくさせてもらって、意思決定するという順番ですね。

1つ加えるならば、実際の流れではサービスについて聞き、市場や事業計画の話をする前で「そもそもVCから投資するべきなのか」という議論を挟むことが多いです。

いけだ:VCじゃないところからお金を集めた方が良いケースもあるんですか?集めたい金額の規模で違うのでしょうか?

大久保:うーん。金額もそうだけど、会社として将来どういうところを目指していきたいかという点が一番大切かもしれないですね。

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VCから融資する時は株式を渡さないといけないので、途中でサービスの方向性を変えたい!と思っても融通が効きづらかったり。本気でユニコーン企業を目指すのであれば、どのくらいの金額を初期に集めないといけないのかなど、将来的な資金調達のイメージも変わってきます。やっぱりここも一概には言えないので、相談に来てもらったタイミングで個別に詳しくお話させてもらう所になりますね。
※ユニコーン企業:評価額が10億ドル(約1040億円)を超える未上場のスタートアップ

いけだ : スタートアップの資金調達=VC探しだと思ってた.....会社を作る前に、会社の将来について一旦冷静になって考えなければいけないんですね。


最後に

いけだ:noteを読んでくださっている方にとってもタメになるお話をいろいろ聞けたんじゃないかな、と思うのでこのまままとめに入っていきたいと思います。現在岡本さんがサービスの提供開始を目指すにあたって、今ぶつかっている課題などはありますか?

岡本:いや、もう課題ばかりかもしれないです(笑)。チームメンバーに医師を加えたい、というのは今一番求めていることで、完成前のところから都度プロの所感を聞きつつ開発を進められたらいいな、と構想していたり。あとは、時間でしょうか。10月になったら大学が始まってしまうので自分のリソースをどのように割いていくか、というところに自分の中でまだまだ課題があると思っています。

大久保:多分岡本さんはかなり考えられているので、本当に相談に来ていただけたら、ディスカッションの材料は多くある気がします。またいつでもお話しましょう。

岡本:ありがとうございます!もうちょっと自分たちで自走できるところがあるので、そこまでは頑張って、将来的にはそこからさらにお金を借りて進めていく感じになるかと思っているので、その際は宜しくお願いします!

いけだ:ありがとうございます!では、今起業やスタートアップに興味を持ち、noteを読んでくださっている方に向けて岡本さんから最後に一言お願いします!

岡本:今作っている患者と医師のコミュニケーションツール「Handnote」開発チームでは、共にサービスの開発を進めてくれる医学生と、自然言語処理に強いエンジニア、患者さんへわかりやすく伝える資料を作るためのイラストレーター・動画クリエイターの方を募集しています!価値観が重なっていたり、Handnoteの想いに共感してくださる方と共に開発を進め、社会実装を目指していきたいです。ぜひご連絡お待ちしています!

いけだ:我こそは!という方はぜひ!岡本さんのおかげで、「創業シミュレーション」というテーマでかなり具体的なお話を沢山残すことができました。今日は本当にありがとうございました!

大久保:ありがとうございました!

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文・いけだみほ

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もう少し読みたい方へ ↓
Spreadって何だろう?(北海道のスタートアップコミュニティ「Spread」はじまります!)https://note.com/spread_magazine/n/n01bef9ec5a72

VCって何ですか?を、VCに聞きました。
https://note.com/spread_magazine/n/nb4ea7d19e64a

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