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実際にあるサービスで「資金調達するなら?」と仮定。【創業シミュレーション・前編】

Spreadは、起業・スタートアップやデジタル・新領域ビジネスについて「知る・学ぶ」ことを目的としたメディア(Spread magazine)と、それに連動するイベント・コミュニティ、そして今後リリース予定の「新規事業創出を実践するプログラム」からなる、大学生・若手社会人をターゲットとした新規事業創出プロジェクトです。

magazineでは、起業に必要な知識を丁寧に紐解きながら、誰でもスタートアップを身近に感じられるような情報や、自分も!と飛び込んでみたくなるようなベンチャーシーンの熱い空気感をお届けします。

今回は、「創業シミュレーション」編。実際にあるサービスを例に置き、そのビジネスで資金調達をするならと仮定。事業を自走させるために必要なステップについて、VC設立者である大久保徳彦さんとのロールプレイの中で順を追って解説します。資金調達を目指すためにすべきことって?事業計画は必要?等々、各回を通じて理解が深まる連載企画です。

創業シミュレーションとしての第1回目、医療系のサービスを手がける岡本大樹さんをゲストにお招きして、お話を伺いました。前編では岡本さんのサービスが誕生した経緯についてや、事業内容が具体的に詰まってきた後で、改めて資金調達を目指すために必要なポイントについて解説します。

\ゲスト/ 岡本大樹
北海道大学 獣医学部 獣医学科中退。北海道大学 医学部 医学科入学後、IT企業で1年間社員として働く。起業家育成プログラミングスクールG’s ACADEMY 札幌1期生。TORYUMON ZERO3期生。北海道大学公認の北大医学部起業部を2021年4月に共同で設立。「一人ひとりが自信を持って医療と関われる世界」を作るため、患者さんの手元に医師の説明が残るサービスを開発中。

大久保徳彦
株式会社POLAR SHORTCUT 代表取締役 CEO
北海道帯広市出身。慶應義塾大学を卒業後、新卒でソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)に入社し、プロジェクトリーダーとして多くの新商品企画や新規事業推進プロジェクトに従事。その後、動画制作のスタートアップ企業 Crevo株式会社にて、経営企画・人事・財務・新規事業開発領域をNo.2として統括。2020年4月に札幌へ拠点を移し、北海道の成長産業・ベンチャー支援をテーマとして株式会社POLAR SHORTCUTを創業。2021年4月にベンチャーキャピタルファンドを組成。

いけだみほ
北海道札幌市出身。北海道大学在学中。アルバイトスタッフとして札幌市内コワーキングカフェバーで働きながら、ライターとして活動中。

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お医者さんの話を持ち帰る?

いけだ:岡本さん、今日は宜しくお願いします!まずは、岡本さんの自己紹介と、今回の「創業シミュレーション」の核となる現在岡本さんが手がけているサービスについて教えてください!

岡本さん(以下、岡本):宜しくお願いします!北海道大学の医学部医学科3年岡本大樹と申します。もともとは北大の獣医学部にいたのですが、そこから進路を変え医学部に入りなおしているので今23歳です。

これまでNPO法人が運営する創業サポートmoctecoやエンジニア養成スクールのG's ACADEMY、札幌市が手がけるStartup City Sapporoのプログラムに参加して、起業への理解を深めてきました。

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そうして、現在取り組んでいるのは「お医者さんの話を家に持ち帰ることができる」サービスです。僕自身、母親が救急搬送された経験があるのですが、病院へ駆けつけてお医者さんの話を聞いても、ひどく動揺して先生が何を言っていたのか全く理解することができなかったんですよね。

母は無事で、その日のうちに帰ることができたのですが、次の日の朝にまた体調を崩してしまって。そんなことがあったときに、自分の母親の中でどういうことが起こっていて、どう対応すればいいのか。大事なことなのに、患者さんの元にあまり情報共有がされていないな、と感じたんです。

この体験をきっかけに、お医者さんの話を患者さんが家でも見返せるようなサービスを作ろうと思いつき、開発をはじめました。

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【医師と患者のコミュニケーションの課題に着目。医師の説明を家に持ち帰ることができるサービス。】

いけだ:そんな背景があったんですね。サービスとしては、具体的にどのように「お医者さんの話を持ち帰る」のでしょう?スマホのアプリのようなものを作っているイメージですか?

岡本:そうですね。患者さんのスマホで医師の診察の内容を録音して、それを文字に起こしたものが患者さんと医師の両方へ送信できるものを目指しています。

お医者さん側からすると、単なる文字起こしでもそれが誤解の無い正しい情報になっているか、一度確認できると嬉しいとのこと。でも、そういったサービスは今まで強く求めていたものだから嬉しい!というお声をいただきました。

整形外科や脳外科だと手術の前に本人に小一時間説明をして、それを次の週に繰り返しお伝えしなければならないことも少なくないんです。

このサービスがあればお医者さんの忙しさも軽減できるし、患者さんはいつでも医師の説明を読み返すことができる。今は仮のものが出来あがっている状態で、現場の医師の元に持って行って意見を聞いたり、実際に使ってもらったりしながら新しく改良している最中です。

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大久保:現在医学部に在籍されていると思うのですが、moctecoやG's ACADEMY、Startup City Sapporoなど「起業」や「スタートアップ」をキーワードにしたプログラムに積極的に参加されていますよね。今のサービスを始める前から、起業には興味があったんですか?

岡本:そうですね、2年くらい前から漠然と起業家に憧れていました。その時はただの憧れ止まりだったのですが、そういったプログラムに参加したり、北海道銀行のインターンにも行ったり。振り返ってみると、経験の中で「起業」というものが少しづつ具体化されて、知っていくうちに面白さが加速されていった気がします。

資金調達を目指すために大事な3つのポイント

いけだ:大久保さん、「創業シミュレーション」と言えど、岡本さんの例はかなり具体的な所までサービスが出来上がっているんじゃないかとも思うのですが、ここから資金調達を目指すにあたって、どんなことが重要になってきますか?

大久保:そうですね。VCからの調達で言うと、何よりもまずベンチャーキャピタリストにコンタクトを取らなければ始まらないですよね。

その時何の話をするか、というのが気になっていると思うのですが、僕のVCのケースで言うと、大事になってくるポイントは大きく分けて3つあると思っています。

ー1.解像度をどれだけ高く持てているか

一つは、手がけているサービスや、顧客の解像度をどれだけ高く持つことができているか。これは、他の色々なイベントやSpreadの別の記事などでも触れていることなのですが、これ一つだけ、と言っても良いくらい重要なので、繰り返します。

例えば今回の岡本さんの例で言うと、すごく良いなと思ったのがお話してくれたお母さんの搬送時の話みたいに、自分の原体験からアイディアがスタートしていることです。

そうすると、誰がこのサービスを求めていて、どういうシーンで使うのか。本来ディスカッションなどを通じて深めていく事業の核となる所が、最初からかなり具体的なんですよね。

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他にも、仮のサービスを持ってお医者さんの元を訪れたとのことでしたが、そうやって実際に現場の声を聞きに行っていることも素晴らしいと思います。

自分であれこれ考えていたのとは全く違う要素や、必要な機能が浮かび上がってきたと思うし、それをインストールしていく過程で、サービスがどんどん実現可能なものに近づいていると思うんです。

岡本さんの場合、今の時点でPDCAが既に2回くらい回っている状態で、この人はきちんと考えているんだな、というVCからの評価にも直結します。

ペルソナや課題の設定をしっかりと作り、解像度をどれだけ高く持っていけるか、というのが他の何よりも重要なポイントです。

ー2.市場規模とポテンシャル

二つ目が、狙おうとしている市場の市場規模とポテンシャルの話です。

ビジネスモデルを考えたあとVCに見せる際に、どうしてもVC側が気にしてしまうのが「何となく広がりのある市場かどうか」。全て押し並べて一概に言えるものでは無いですし、例外も多いので本質ではないかもしれない、というのを念頭に置いた上で聞いてください。(あくまでも、一番大切なのは一つ目)

当たり前だけど、どんなに良いサービスでも求めている人が500人しかいなければ、「見込みのある市場」とは言えませんよね。でも話を聞くと、そういう母数の小さい「広がりがない市場」を選んでいる人が、意外と多かったりするんです。

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どのくらいの大きさの市場を狙えるか、というのは実際の投資検討の場で必ず出てくる話ですし、今回で言えばお医者さん向けの医療サービスというところで、ある程度市場の規模感が想定できるのも良いですよね。

お医者さんの中でもどういった人達が使うのか、例えば特定の病気に関するサービスなのであれば具体的に年間何人いて、そこからどう価格を見積もるのか、などなど。

新しいサービスだとそもそもの市場の捉え方に苦労したり、世の中にデータがないので見当をつけることが難しかったりするのですが、数字が本当に正しいかどうかなんて最初はどうでも良いんです。ざっくりとでも市場を捉え、自分の中である程度数字を見積もれているか、が大事になってきます。

ー3.事業計画

最後、三つ目に必要なのはそのサービスにかける想いやお金周りの話を詰め込んだ「事業計画」。もっと踏み込むと、予想される年間の売り上げや直近1年の収支、出入りするお金の規模感や伸び率をどの程度考えられているか、という点です。

何にどのくらいお金をかける必要があるのか、そのためにいくら資金調達したいのかというところ。「〇万円欲しいです!」と言う前に、その数字に至った理由が必要になってきます。

ばーっと話してしまったけど、このくらいかな......。

いけだ:ありがとうございます!岡本さんのサービスの場合、まだ融資や資金調達はこれから、というイメージでしょうか??

岡本:そうですね。今は他に2人いるメンバーと一緒に自分たちの中でできることを進めているのですが、メンバーに大人を入れたり、セキュリティを強化していくためにやっぱりお金が必要で、投資か融資を受けるのかまだわからないけど、あれこれ考えていくことになると思っています。

いけだ:ちなみに......事業計画書って書かれてみたことはありますか??

岡本:1回書いてみたんですけど、僕だけじゃなく他のお医者さんも絡んでくることなので今作っても不確定要素が多すぎるのかな......と。今は、サービスを実際に使ってもらってから書いてみようかと思っている所です。

大久保:それで良いと思いますね。本当の初期の段階で事業計画を作っても、そもそもの前提条件が途中で変わってしまって、せっかく作った計画が全然違うものになってしまう事が多いですから。なので、さっき話した市場規模も、事業計画も、実際に考えて作るのは本当に資金調達を目指す寸前でも良いんじゃないかと思っています。

いけだ:その「事業計画書」がどういったものなのかサッパリなのですが、資金調達を目指すならどこかのタイミングでは絶対必要になってくるものなんですよね。インターネットに「事業計画書のテンプレート」を見つけたのですが、これを元に事業計画書の書き方、教えてください!

大久保:(テンプレートを見て)これ、「事業方針」と「収支計画」がセットになっているやつですね。確かに初見だと知らない情報を調べるだけでも大変かも。ざっと見た感じ、創業初期の資金調達だと、重要ではない欄も多いので、書くためのポイントを整理してみましょうか。

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文・いけだみほ
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Spreadって何だろう?(北海道のスタートアップコミュニティ「Spread」はじまります!) https://note.com/spread_magazine/n/n01bef9ec5a72

VCって何ですか?を、VCに聞きました。
https://note.com/spread_magazine/n/nb4ea7d19e64a

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