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第3章:失敗しない新規事業開発は「4つのステップ」で行う

前回までは、市場性の高いペインを解決する手段としてビジネスを組み立てることの重要性を説いてきました。顧客が気づいている、明確なペインを解決することに力点を置くことで、独りよがりな思い込みでビジネスを失敗に追い込む事態を避けやすくなります。この点を理解したうえで、本章を読み進めてください。

今回のポイントは、章タイトルに掲げた通り、失敗しない新規事業開発の基本手法について。これは4つの段階を経て行われるもので、「フィット検証」と呼ばれる手法です。

基本的な流れは、この4つの段階を順を追って検証していくだけです。①をクリアできたら②へ、②を満たせたら③へ進む、というように段階を経ながら進んでいくというもので、条件を満たせなければ、その仮説はその時点でクローズして、終了するという、ごく単純な仕掛けです。

起業を志す皆さんは、最後のプロダクトマーケットフィット(PMF)くらいは聞いたことがあるかもしれませんが、重要なのは、一つずつステップを経て、検証しながら進むという仕組みであることにあります。いきなり投資してプロダクトを創ったものの、誰からも見向きもされずに爆死してしまう、という実例を死ぬほど見てきましたが、こうした大怪我をしないための仕掛けが、この「フィット検証」になります。まずは①の段階から順に解説していきましょう。


1.ユーザー/課題 フィット

一番最初の段階ですが、マーケティング志向の新規事業開発において、ここが最も重要です。すなわち「そのペインを持ったユーザーは実在するのか?」を特定するフェーズになります。

99%のアイディアや仮説は、この段階で消えるのが普通です。ともかく数を打つことが必要になってきます。リアルの対面も電話でも良いのですが、自分が実際に話を聞ける範囲内で「◯◯で困っているか?」という事をひたすら聞き込みます。
ここで重要になってくるのが「SNSでそういう書き込みを見た」といった、話しを聞けないものは見つけたことになりません。可能な限り対面であることが望ましいですが、電話やLINE、メッセンジャーでも何でも良いので、必ず自分で直接、話を聞けることがマストとなります。これをまずは自分の身の回りだけで3人以上見つけてください

「◯◯という現象は、ユーザーにとってペインなのか?」という事を突き止めるとともに、その課題に市場性すなわちマーケットとしての成長可能性があるのか?という点を同時に確認するのが目的です。いくら深刻な課題であっても、それをペインに感じている人が世界に1人しかいないのでは、商売として成立しません。
自分で話を聞ける範囲だけで3人見つからない場合は、そのペインは広がりがないもの、と判断して次のペインを探しましょう。アイディアの99%はこの段階で消えるので、アイディアの一つが消えたからといって、落ち込む必要はありません。どんどん聞き込みをしていきましょう

話しをしている中で「そんなことより、こっちで困ってる」など新しい補助線を引いてくれるユーザーもいますので、気長にコミュニケーションを取ってください。

また、ペインの実在を確認するとともに、もう一つ重要なポイントがあります。「そのペイン解決にいくら払える?」という点です。
「頭が痒い」程度のペイン解決のために、わざわざお金を払ってくれる人はいませんよね。「カネを払って解決したいレベルの課題感」がユーザー側にないと、ビジネス化はすごく難しくなります。フィット検証を5段階にするパターンでは、最後に「市場/マネタイズ」フィット、というものが入る場合もありますが、プロトタイプまで創ったのに売れない、売り方を考える、という販売志向のような考え方になってしまうので、本稿で特にフォーカスして取り上げている、マーケティング志向の新規事業開発の考え方とは異なります。

まずは、この「ユーザー/課題」フィットに全力を掛けましょう。ここは非常に難しいので、次回で詳しいやり方について紹介することとして、次の検証段階を説明します。

2.課題/解決策 フィット

ペインを持ったユーザーが実在することが確認できたら、次は「課題/解決策」フィットで、その原因の特定と解決法の探索に移ります。

ユーザーが課題感を持っている「現象」がペインだとしたら、その事象を引き起こしている原因が必ずあります。理由もなく発生する現象というものは、この世に存在し得ないのは、理科の授業でも習ったところですね。
「どうやら実在するらしいペインをどう解決するのか?」という点を追求するのが、このフェーズです。様々な手法がありますが、ここで深くユーザーインタビューなどで真意を聞き出す、ということをやるのも悪くはないのですが、あまりオススメではありません。なぜなら、人間は「自分のことが一番良くわかっていない」生き物だからです

「どうして◯◯をしないんですか?」と問われても、うまく言語化できる人間はそう多くありません。その場を取り繕うために、いい加減な思いつきの言葉を発してしまいがちです。
ユーザーは、自分の行動の原因を良く分かっていないし、何より誰しも自分をカッコよく見せたいという見栄っ張りの精神が誰にもありますよね。ついアンケートにもカッコよく回答してしまうもの。特に最初の段階でペインの実在を教えてくれた人たちは、皆さんの顔見知りの人たちです。知り合いに自分の恥ずかしいところなんて、見せたくないのが人情というもの。

それでは、どのように原因を突き止めていくのか、というと、「◯◯が原因なんじゃないか?」という仮説を立て、これを解消・緩和するための道筋を考えます。ここで考えたネタを3人のユーザーに対して「こういう手法なら解決できるか?」という話題を振ってみて、実際の反応を見るのです。
めちゃくちゃ食いついてくるか、乗り気ではなさそうなのか、何か引っかかりがあるように感じているのか。ここで重要なのが、社交辞令で「良さそうですね」と言っていないかどうかを見抜くこと。これを真に受けてしまうと、解決策を見誤ってしまい、この後をいくら頑張っても、その事業は失敗するしかなくなります。

猫を相手に、新しい餌を出してみて、一番まっしぐらに食いつくのはどれか、を見定める。これくらいの心づもりでユーザーに当たるくらいの気持ちで臨みましょう。ユーザー/課題フィット同様に、1発で食いつくことはありませんので、ひたすらボールを投げてみて、相手の反応を見る、というのを繰り返していきながら、正解を探っていきます。
これを繰り返して、3人中2人が食いついてくる解決策を見つけたら、このフェーズはクリアです。

3.解決策/プロダクト フィット

ここまでをクリアできていると、自然にどんなプロダクトが必要になるか、見えてきている頃ですね。次の段階で行うのは、前のフェーズで見つけた解決策を実装に向けて動き出します。とはいえ、いきなり大金をかけて製品を作ってしくじってしまったら、目も当てられません。本稿の目的は「失敗しない」新規事業開発のやり方を解説することなので、そうならないための仕組みとして、この解決策/プロダクトフィットについての解説をしていきます。

ここで最初に取り組むのが、試作品を作ること。スタートアップ業界では、これをMVP(Minimum Viable Product)と呼びます。日本語にすると、実用できる最低限の製品、という意味になりますが、まずは触ってみて「そうそう、こんな感じだよ」と3人のユーザーに感じてもらえるような、試作品を作ります。

スパルタキャンプを受講すれば、プログラミングで自分の考えたプロダクトを実装できますので、ウェブサービスでもアプリでも何でも作れてしまいます。こうした動作確認ができる程度のアプリなどを受託開発を生業とする企業に頼んで外注で作ろうと思えば、最低でも500万円程度のコストは余裕でかかってしまうでしょう。自分でプログラミングを書けるようになれば、ここがゼロ円になりますので、IT関連のスキルは、ぜひとも身につけておいた方が良いですね。
スパルタキャンプに参加すれば、ITも身につくし、このような新規事業開発のスキルも学べます。マジで最強ですね。

プログラミングが出来ない場合はどうすれば良いのか?というと、事業化しようとする領域によって様々なMVPの手法はありますが、一例として本稿ではプレスリリースで反応を見るやり方をご紹介します。

「こういう新規サービスを開始します!」という、リリースを打って、事前登録をしてもらうというやり方です。ソシャゲなどの分野でよく使われる手法ですね。
これで実際に見込み以上のユーザーが集まるようであれば、コストを掛けて実際のプロダクトを開発する、あまり反応が良くない場合は、そのままフェードアウトする、というものです。事前登録以外にも、メディアや協業できそうな会社からの問い合わせ件数などを見る場合もあります。ここで問い合わせがどが来れば、プロダクトを作る際に、みんなどんなポイントを重視しているのか、という点も見えてくるので、このリリースをやってみる、という手法もなかなか使えるやり方です。

4.プロダクト/市場 フィット

仮のプロダクトで反応が良ければ、次は実用に耐えうる本番プロダクトの一歩手前程度のものを実際に使ってもらって、今度はユーザーの反応を見る、というプロダクト/市場フィットの段階へと進みます。これが、PMFと呼ばれるものです。

ここまで来たら、途中の段階のどこかでしくじっていない限り、事業化へ向けてバンバン動くだけになります。

ここで何を検証するのか、というと、そのプロダクトを最も熱狂的に使ってくれる人を見つけることです。喜んで気前よくお金を払ってくれる顧客を見つけ、その人たちが使いやすいように、製品をカスタマイズしていく、という仕組みへとプロダクトを磨き上げます。
いかにスマートに課金して、ペイン解決につながるのか、改善し続けるというものですね。ここでは実査にサービスやプロダクトを市場に投入して、ヘビーに使ってくれるユーザーの行動を見てみると、当初想定していなかった使い方をする人なども出てきます。「こんなニーズもあるのか!?」ということが見えてくると、次の開発にもつながってきそうだな、という事も見えてきます。

私はこれまで100社以上の新規事業開発に携わってきましたが、このフェーズが一番楽です。ここに至るまでの過程でしくじっていなければ、すんなりフィットすることになるので、それほど難しくはありません。
一方で販売コンセプトのような手法では、いきなりここに来て「売れない商品を欲しい人はどこにいるんだ!?」とばかりに血眼になって営業を掛けたり広告を打って、無反応な日々で消耗していって、会社を畳むことになる、なんて事例も山ほど見てきました。

ここでご紹介したやり方をすると、最初はめちゃくちゃ大変ですが、あとになってから苦労しなくなります。後半でプロダクトを開発するのに多額の資金を投入するに当たっても、自信を持って行うことができるし、何より事業の失敗で借金を負うといった大怪我をするリスクを軽減することができます。
大怪我をする前に、小さなしくじりを積み重ねる。マーケティング志向による新規事業開発の真髄はここにあるのです。

これまでの流れを実際に動いていくやり方に基づいてをまとめると、次のような形になります。

STEP1:誰がどんなPainを抱えているか、実在する人物3人を見つける
STEP2:そのPainを解決する方法を考えて、3人にぶつけて2人以上から支持されるやり方を見つける
STEP3:その解決方法をもりこんだプロダクトを作る。ただしいきなりプロダクトは怖いので、 MVPでデータ取る
STEP4:できたプロダクトを熱狂的に使うターゲットを見つ出す

このフローに基づいて、ダメなら振り出しに持ってやりなおし、という形で進めていくのが、フィット検証の基本です。

ユーザー/課題 フィットの項目でも説明しましたが、この段階が最高に重要です。次章では、この手法のやり方について解説します。

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