椅子を特定する話
こんにちは。椅子大好きデザイナーつぼたです。
私は良い椅子を見つけると、メーカーやデザイナーをチェックする趣味(癖?)があります。そんな椅子大好きな私ですが、世の中には椅子が何千種類、何万種類と存在しています。そうなると、世の中の椅子の90%以上の椅子が知らない椅子なのです。
そんな椅子を特定するためにネットで検索をすることもあります。
有名な椅子を使用しているお店やホテルが多いですし、みんなが使用する家具屋さんの椅子は知っているものも多いです。ですが、マニアックな椅子を使用していたり、海外から直輸入している椅子を使用しているところもあります。そうなってくると検索のハードルは一気に上がります。
ミッション1:新潟の椅子
そんな私の元に、新潟に出張(旅行?)している友人から「いい椅子があった」と連絡が届きました。
これはシンプルながらもスタッキング(積み重ね)できる良いプライウッドの椅子ですね。プライウッド(plywood)は「合板」とも言い、複数の薄い木材を重ねて接着したものです。このプライウッドを曲げたりして整形したものを「整形合板」と呼びます。そして整形合板で作られた椅子を「プライウッドチェア」とも呼びます。プライウッドチェアも最近は多いので探すのは大変ですが、「プライウッドチェア スタッキング」で調べていると出てきました。
7分で調査完了です。
こちらはIDEEの「ラング スタッキング チェア(LANGUE STACKING CHAIR)」という椅子のようです。IDEEのショップに「猫の舌( = Langue de chat)を想像させるフォルムが特徴」との説明がありました。スタッキングの機能性と美しさを兼ね備えた椅子は素晴らしいですね。IDEEは好きなブランドですが、この椅子は認識できていませんでした。
調査報告
・IDEE「ラング スタッキング チェア(LANGUE STACKING CHAIR)」
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ミッション2:ホテルのスツール
ミッション1から10日ほど経過したある日、別の友人からこんな写真が送られてきました。
ほぉ……これは「スツール」ですね。椅子をあまり知らない人のために説明すると、日本語で「椅子」と言っても、背もたれのあるものを「チェア(chair)」、背もたれのないものを「スツール(stool)」と呼びます。スツールで検索するとかなり絞れます。
写真を見る限りは最近のデザインっぽいですね。ビンテージのような無骨さを出していますが量産されているように感じました。
このスツールの特徴は「クッションだけ色が違うこと」と「高さを変えられること」、「脚の上部がビス(リベット?)で固定されていること」、そして「脚の下がリング状のパーツで繋がっていること」です。真っ黒に近いので、画像検索の色指定も使えそうですね。
検索しているとコンスタンティン・グルチッチのスツール「トム&ジェリー」も引っかかってきて、テンションが上がります。
似たデザインもけっこう多い。スツールってこんなに種類あったのか……と考えつつ、除外ワードも使って調査して行きます。
……出てきました。
8分で調査完了です。
IKEAのスツール「ダルフレッド(DALFRED)」です。上のクッションは所有者が取り付けたようです。クッションを中心に検索していたら特定はできませんでした。それにしてもこのスツールが6,990円って安すぎる。デザインもかっこいいし、さすがIKEA。
調査報告
・IKEA「ダルフレッド(DALFRED)」
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ミッション3:ホテルの椅子
スツールを特定した直後の私に追加でこんなLINEがきました。
おおお……上はアンティークっぽいデザインだけど、脚は最近のデザインだと思うから、おそらく「アンティーク感を演出した椅子」だろうと検索開始。
こういう編まれている家具は「ラタン(rattan)」が使われています。日本語では「籐(とう)」と呼びます。ラタンは強度があり、かつ撓るので身を預けた時に体にフィットするような心地よさがあります。ラタンの椅子で調べていきますが全然出てきません。「籐」の椅子も検索するけれど出てこない……日本じゃないのか?
(この時点でかなりの時間が経過しています)
そう思い、「rattan chair」でも調べるけれど出てこない。色々検索ワードを試してみるけれどぜんっぜん出てこない。調べても調べても出てこないので、パーツで絞ることにします。
例えば、この脚は金属でできています。量産しているということは、金型なり砂型なりの「型」があるはず。型があると脚を共通化している可能性も高い。「同じ脚が見つかれば、そのメーカーから目的の椅子が出てくるはずだ」と考えました。
しばらく調べていると同じ脚の椅子を発見!!脚部分だけ見ると「KANADEMONO」というメーカーの椅子「Plump Lounge Chair」のようです。しかし、そのメーカーのデザインは結構近代的なものが多く、目的の椅子はありませんでした。目的の椅子は見つかりませんでしたが良さそうな家具が多いです。今後のために覚えておきましょう「KANADEMONO」。
そこからGoogle先生の体調が悪くなるくらい画像検索をしました。今日はここまで。
別の日にもう一度検索開始。今回は上部だけで調べて見ることに。ラタンチェアを中心に検索をしてみます。
……、
………………、
………………………………………………。
おや、似ている椅子がある。いや上部だけ完全に一致する!
パオロ・リザットのデザインした椅子「Young Lady」だ!!
ここまで一致するとなると、考えられるのは……
使用していたYoung Ladyの脚が壊れ、上部が壊れていたKANADEMONOの「Plump Lounge Chair」と組み合わせたんじゃないか、と推測しました。和と洋、今と昔の融合。そりゃ同じものが見つからないわけだ。
というわけで調査完了です。仕事してたりフェスに3日間行ったりしていたので、結果として9日間かかりました。
調査報告
・上部:パオロ・リザット「Young Lady」
・脚部:KANADEMONO「Plump Lounge Chair」
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ミッション4:休憩場所の椅子
ミッション3の調査完了から約2週間後。別の友人からこんなLINEが届きました。
すごく気に入って「好きすぎて欲しい」という熱い想いも。これは頑張るしかない。
写真をよくみると、後ろのガラスにサン・アドデザインの「虎ノ門ヒルズ」のロゴが見えます。なるほど、虎ノ門ヒルズの椅子か。と、虎ノ門ヒルズのウェブに行きますが、やはり椅子の説明は出てきません。納入した業者が納入実績で載せてないかなと調べましたがこちらもヒット0。昔はホテルのために建築家が椅子をデザインしたりする時代もありましたが、何万脚と椅子が存在する現代にそんな労力は割く可能性は低いだろう、と推測して検索を続けます。
ミッション3の時と同じくラタンっぽい椅子です。「ラタン/rattan/籐」関連で一通り検索をかけましたが一切ヒットせず。
同じ製品が複数あるので、ミッション3とは違って分解したり組み合わせたりはしてなさそう。虎ノ門の椅子で検索していると、同じシリーズの2人がけのものも出てきました。「ラタンの椅子」は多くても「ラタンのソファ」や「ラタンのベンチ」は多くない!と片っ端から検索をかけましたが出ない。時々似たデザインは出てくるけどドンピシャがない。次に黒いラタンでも検索をかけましたが出なかったです。
「虎ノ門ヒルズの椅子」で検索すると、荷物置きのようなスツールのようなものが一緒に写っていました。これはオットマンだとしたら検索に使える。オットマン(Ottoman)というのは簡単に説明すると脚置きです。フットスツールとも呼ばれるようで、リラックスするために使うソファの追加アイテムみたいなものです。ラタンのオットマンなんてあまり聞かない。よし、これで特定だ!!
…………………………ぜんっぜん出てこない。
うーん……そういえば、この椅子、屋外に置かれていないか?屋外にラタンはカビだらけになるので、人工ラタンの可能性がある。検索をかけるけれど思った検索結果が出てこない。
この椅子強い……
使用ジャンルで絞るか。
「耐水 椅子」出てこない。「屋外 家具」出てこない。「庭 椅子」出てこない。「リゾートチェア」……出てこない。ウィンドウとタブだけが増えていきます。「ガーデンチェア」……ん、ちょっと近い。方向はこっちか!そこから画像検索を繰り返したり条件を絞ったり英語で検索したりしていきます。
注目ポイントは「ラタンの編み方」です。よく見かけるのが、穴が「8角形」になっている編み方です(名前はわかりません)。ですが、送られてきた画像の椅子は編み方が特徴的で、和柄でいう「麻の葉文様」のようにも見える変わった編み方です。
もう一つは「脚の構造」です。
左右の脚は「ロ」の字で、下でつながっています。この形状は多くないです。それを探します。
ガーデンチェア、garden chair、アウトドアチェア、outdoor chair、アウトドアファニチャー、outdoor furniture……永遠に見つからないような気さえしてきます………………
ん……ん?!同じ網目の椅子あった!!!!
これは絶対関連商品だ!とウェブサイトに飛んで見ると、表記が
ふーん、デザイナーはPatricia Urquiolaか…………パトリシア・ウルキオラ?!!!
パトリシア・ウルキオラは日本でも知名度がありますね。auのデザインケータイプロジェクト「iida」で知っている方も多いのではないでしょうか。フォルムだけでなく色使いも素晴らしいデザイナーです。
ですが、実はパトリシア・ウルキオラで検索をしていました。それでもこの椅子は出てきませんでした。「Patricia Urquiola chair」で検索して、やっと、見逃しそうな画像が出てくるくらい。
そこからはシリーズ名がわかったのですぐ特定。椅子の名前とデザイナー名が分かればメーカーまではすぐです。メーカーは「Kettal」。
4日間かかりましたが調査完了です。
価格いくらかな?と調べてみましたが、一般ユーザー向けに売っていないのか「見積もりリクエスト」ばかりが出てきます。海外サイトのBtoBの商品……?
検索してもぜんぜん出てこない理由がわかった気がします。単体の椅子としてはミッション3を凌ぐハードさでした。依頼してくれた友人に報告すると喜んでくれました。
調査報告
・パトリシア・ウルキオラ「Maia(ブランド:Kettal)」
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ミッション番外編:ポスター
旅人(ミッション2~3を送ってきた友人B)とLINEしていると「ガウディが作ったアルファベットのポスターが欲しいからスペイン行きたい」という「うどん食べに香川に行きたい」のレベルをMAXにしたような話が出てきました。
旅人のフッ軽をなめてました。それはそれで面白そうではありましたが、現代はネット社会。「ネットで手に入るのでは?」という話になり、それ程までに欲しいデザインとはどんなポスターなのか?と調べることになりました。
ミッション1~4とは異なり、視覚的手がかりはゼロからスタートです。
ちょっと調べて見ると、ガウディのアルファベットポスターが出てきました。
これじゃないか?数分で特定か?!と思って見せてみると「違う」とのこと。複数のアルファベットのポスターを作っていたガウディに敬服しつつも、以前そこで購入したアクセサリーも見せてくれました。
この「m」が使われていたとういう情報が。確かにポスターと見比べても「m」がぜんぜん違う。
英語で検索したり、スペイン語で「Gaudí」、「Póster」、「La Pedrera」という単語を駆使して検索しますがぜんぜん手がかりすら出てきません。
依頼主(?)も「記憶違いなのかな」と不安になってきますが「同じフォントの入ったアクセサリーを買った」という記憶があるので、記憶違いとは考えにくい。初めは「カサ・ミラ用のフォント」とのことでしたが、「カサ・バトリョかもしれない」という情報が。
検索して見ると、カサ・バトリョの扉に似た文字が付いています。
「Casa Batlló(カサ・バトリョ)」と「Alfabeto(アルファベット)」で検索してみると、YouTubeのサムネに見たことある文字が!
そこからもう少し踏み込んでいくと、ウェブサイトにたどり着きました。
どうやら、カサ・バトリョが公式的に作成しているポスターのような「塗り絵」の紙だったようです。おしゃれすぎる。しかもPDFをダウンロードして自分で塗ってみてね、という感じっぽいです。追加情報のおかげで1時間20分で調査完了です。
調査報告
・Coloring Alphabet Gaudí by Casa Batlló
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これらの調査を経て、つぼたはデザイン探偵となったのでした。おしまい。
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SPOT DESIGN 坪田将知
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