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遠見の富士


親の呪縛。そういうことを研究テーマにしている友人がいました。スポーツ場面で親が ”頑張って” と子供を応援する。それを素直に応援と感じない、過度なプレッシャーと感じる子供がどのくらいいるのか。調査しました。

”頑張って” をプレッシャーに感じる人なんているの?と半信半疑でしたが、少なからず一定数いたのです。さすがに過半数まではいかないけど、一定数いるということに少し驚きました。

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小2の少年がサッカーチームにやってきた時のこと。年上の練習に混ざってもひときわ目立つプレー。技術、ハート、知性、どれをとっても素晴らしい才能でした。

ところが、ひと月、ふた月と経ち、彼のプレーにいまいち元気がない。どうしたんだろうと探ってみると、お母さんにたどり着きました。練習帰りの車中で、ずっとダメ出しをされている。”なんでもっとできないの” 、”あの子はもっと上手く出来てたよ” 。そんなことを毎回言われているようでした。

それは止めたほうがいいですよ。お話しをする度に、納得されるお母さん。しかし次第に元通り。その繰り返しで、結局彼はいつもダメ出しをされながら帰って行きました。

その後チームを離れた僕は、人づてに ”彼が辞めた” と聞きました。

「そっか別のチームに行ったのかぁ」
「いや、サッカーを辞めた」
「ええ!」

あれほど才能を持った子がサッカーを辞めざるをえないなんて。母親の強大な力の前に自分の無力さを痛感した出来事でした。


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数年後にも、同じような素晴らしい才能に出会いました。そして同じようにお母さんにプレッシャーをかけられている。もっと練習しなさい。毎日そう言われている。

足はお母さんの元へ。そういうのは止めたほうがいいです。子供に良い影響を与えません。しかし、どこか暖簾に腕押し。こちらの想いは、なかなか届きませんした。

そんな中、偶然お母さんにお会いした時に、ふとこう伝えました。
「彼はサッカーに関しては天才です。何も心配はいりません」

その時、お母さんの表情がわずかながら変化したように見えました。その言葉は決して大げさでも、おべんちゃらでもなく、こちらの本心でした。10歳ですでに大人を欺く華麗な技術を持っている。そんな選手はそうそういるわけではありません。

その言葉がうまく伝わったのかどうかはわかりませんが、それから彼は次第に元に戻っていき、才能を存分に発揮できるようになりました。


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富士山が美しく見えるのは、遠くから見た時です。実際に登ってみると、赤茶けた土、大小の岩々、険しい道のり、あまり美しくは見えません。同じように、我が子と近すぎるお母さんには、その素晴らしい才能がなかなか見えないことがあります。

子共は素晴らしいです。周りと比べて、できない、劣っている、足りない。そう見える時は、子供を見る距離が少し近いのでは、と思うのです。子供の素晴らしさは、時に少し離れて見ないとわからない。

遠見の富士のように、子供の活躍は遠くから眺めるに限ります。離れて見ると、より一層その素晴らしさに感動します。



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