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拷問投票

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SF長編小説。二十年後の日本、凶悪犯への厳罰化を求める世論に流され、一部の犯罪者を合法的に拷問することができる拷問投票制度が存在していた。残虐なレイプ殺人事件で娘を失った高橋実は…
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2024年1月の記事一覧

◯拷問投票153【第三章 〜正義と正義〜】

 パソコンのディスプレイの奥から、黒いスーツを着用した女性が慌てた様子で走ってきた。ディ…

山本清流
5か月前

◯拷問投票154【第三章 〜正義と正義〜】

 リモートで顔を出した国際政治の専門家は、次のように語った。 『かつての日本は経済大国で…

山本清流
5か月前

◯拷問投票155【第三章 〜正義と正義〜】

 犯罪者側に立つ人たちには、いろんなパターンがあると思われる。犯罪者への抽象的な同情を抱…

山本清流
5か月前
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◯拷問投票156【第三章 〜正義と正義〜】

「大きな問題ではありません」  長瀬が無理にポジティブになろうとすると、谷川が続いた。 「…

山本清流
5か月前

◯拷問投票157【第三章 〜正義と正義〜】

 ぎらぎらと直射日光の降り注ぐオフィス街を、すいすいと軽やかに走りぬけていくタクシー。 …

山本清流
5か月前

◯拷問投票158【第三章 〜正義と正義〜】

 長瀬は、タクシーが動き出したのに合わせてポスターから目を離し、車内へと意識を戻した。隣…

山本清流
5か月前

◯拷問投票159【第三章 〜正義と正義〜】

 コメンテーターとしての仕事を終えるのと同時に、川島はタレント活動を辞めた。それから突如、社会を見つめなおしたいという動機から、法律の勉強を始める。一年で予備試験に受かり、また一年で司法試験に合格した。  川島が弁護士になったときには、法務省の司法安定化審議会において拷問投票法についての議論が過熱していた。川島はただちに平和刑法の会を設立した。このときから『拷問に反対せよ!』というキャッチフレーズを用いている。白髪のオールバックになったのも、これ以来だ。  拷問投票法が可決さ

◯拷問投票160【第三章 〜正義と正義〜】

 三十階の高層ビルの最上階に、平和刑法の会の拠点が設置されている。  長瀬と谷川はタクシ…

山本清流
5か月前

◯拷問投票161【第三章 〜正義と正義〜】

「どうぞ、こちらへ。まだ早いですが」  ぴったりとグレーのスーツを身に着けたオールバック…

山本清流
5か月前

◯拷問投票162【第三章 正義と正義〜】

 長瀬は、お土産代わりに、犯罪被害者の会から頼まれていた十ページを超える意見書を川島に手…

山本清流
5か月前

◯拷問投票163【第三章 〜正義と正義〜】

「まずなにより、わたしたちのほうから、考えを明かしておきましょう」  長瀬は、主導権を握…

山本清流
5か月前
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◯拷問投票164【第三章 〜正義と正義〜】

「見せしめにするわけですか?」  川島が、口を挟んだ。空気が揺らぐ。 「社会にとってメリッ…

山本清流
5か月前

◯拷問投票165【第三章 〜正義と正義〜】

 自らに話の流れが及んできたことに気が付くと、内藤は、筋肉質な巨体を丸めつつ、ぶつぶつと…

山本清流
5か月前

◯拷問投票166【第三章 〜正義と正義〜】

「いわゆる事実の誤った認定など?」 「ええ。それに加えて、量刑判断のミスもあります。犯人性とは違うところで、きわめて細かい無数の問題が発生しています」  内藤の言う通り、冤罪というのは、犯人ではない人が犯人として処罰されることだけを意味するのではない。犯人ではあったとしても、過失致死に過ぎなかった犯行が殺人として処罰されることも冤罪であるし、本来なら懲役十年にすべき犯罪だったのに死刑に処されることも冤罪である。  日本では三審制を採用することで誤った事実の認定や偏った量刑を是