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◯拷問投票156【第三章 〜正義と正義〜】

「大きな問題ではありません」
 長瀬が無理にポジティブになろうとすると、谷川が続いた。
「高橋さんの役割は、もう、すでに、果たされています。潜在的な賛成派を掘り返すことに成功したわけですから。これからは反対派を切り崩すために、僕たちに出番が回ってきたわけです」
 そのとおりだ。高橋実を励ますために放たれたその言葉に、長瀬も、若干、背中を押されたような気がした。
「いい意気だな、谷川」
「だって、燃えてくるだろ? いまの日本で本当に拷問が実施されたら、歴史的な大転換なわけでさ。それこそ、一部の噂にもあるように、アメリカの死刑制度がまた動き出すかもしれない」
 ――歴史的な大転換。
 それが単純な厳罰化につながるのであれば、いきすぎかもしれない、と長瀬は思った。いまの社会には、アメばかり降り注いでいて、ムチが足りない。強烈なムチで社会を叩きのめすことにより、みんなの気を引き締める。その一撃だけで十分なのだ。その転換の先で、さらなるムチが発動されることまでは求めない。結果として厳罰化へ向かうことが明らかであったとしても、躊躇する気はないが……。
「とりあえず、谷川。平和刑法の会の川島さんのことについて、じっくりと調査をしておいてほしい」
「了解」
 我々は止まらない。
 巨悪には、しかるべき報いを。