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◯拷問投票159【第三章 〜正義と正義〜】

 コメンテーターとしての仕事を終えるのと同時に、川島はタレント活動を辞めた。それから突如、社会を見つめなおしたいという動機から、法律の勉強を始める。一年で予備試験に受かり、また一年で司法試験に合格した。
 川島が弁護士になったときには、法務省の司法安定化審議会において拷問投票法についての議論が過熱していた。川島はただちに平和刑法の会を設立した。このときから『拷問に反対せよ!』というキャッチフレーズを用いている。白髪のオールバックになったのも、これ以来だ。
 拷問投票法が可決され、施行されてからは、拷問投票制度は『日本の恥』だとして廃止を訴えている。官僚主義を打破するための改革によって政治が悪い意味で民主化されてしまったことも、よく主張している。
 愛知から東京の大学へ、バラエティ番組から報道番組へ、弁護士から人権団体のリーダーへ、あっちに行ったりこっちに行ったりの人生である。
『目的地まで、残り一分です』
 なめらかな日本語でAIが告げたときには、乱立する高層ビルの足元を蟻のような惨めさで進んでいるところだった。