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「そうじゃなくて」の答えをずっとさがしている

これはかなり前の話になりますが、当時流行っていたSNSでやりとりをしていた人がいました。マッチングアプリなどなかったころの話なので「ああ、あのSNSね」と思い至る人もいることだろうと思います。

主に所属していたのはミスチルの好きな人のいるグループとか、同世代の人の集まるグループでした。そこで気の合いそうな人からメッセージが来たり、逆にメッセージを送ることで親交を深めていきます。


男女問わずいろんな人とメッセージの交換をし、特に仲良くなった人とは直接メールを使って話すようになります。写真を送った途端に連絡を寄こさなくなる人もけっこうな割合でいます。その第一関門を突破した人たちとはその後も他愛ないおしゃべりを続けました。いついつのライブがとても良かったとか、あのゲームが面白かったよとか、世代的なことで盛り上がったりもしました。

実際に会おうかとなった人も数人いたのですが、私は当時から病気持ちで体力がなかったために会いに行くことは叶わない距離の人ばかりでした。あとは親がそういった事情にうるさかったということもあります。


その中で一人、今でも覚えている人がいます。

彼とはミスチルの話題で知り合った気がします。私より少し年上の人でした。話していて楽しかったのですが、中間管理職になったばかりで忙しく「連絡もなかなかできなくてごめん」と言われることが多かったです。私は別に構わなかったのですが、その人は気にしているようでした。

ある日その人はほとんど真夜中という時間にメールを送ってきました。それは具体的に内容が書いているわけもなく「仕事が辛い。しにたい」といったものです。私は返事に困ってしまいました。しにたいというのならうつ状態の人なんだろうかととてもまじめに悩みました。もしそうなら適当なことは言えません。何度も何度も言葉を選んでは文面を消し、考え込みます。


刻々と過ぎていく時間。その間にもこの人は何か良からぬことを考えてしまうのかもしれないと不安になってきます。「早く何か言わなくては、でも何を?」と何度も思い直し、何とか送ったのはこんな文面でした。

「大変そうだね。あんまり辛かったら病院とか行ったほうがいいのかもしれない。カウンセリングって方法もあるし、無理しないでね」

するとすぐに返事が来ました。

「そうじゃなくて」

その後どんなことを話したのかは覚えていません。もしかしたら、それ以降ぱったり返事が来なくなったのかもしれないと思います。


あの時のことを思い出すと今でも「じゃあ、何を言えば良かったんだろう?」という思いに駆られます。ただの素人の私が口を出せる問題ではないと感じました。だから専門家に任せるほうが確実だと思ったのです。もしかしたら話を聞いてもらいたいのかもしれないとも考えましたが、知り合ったばかりの私に一体何ができるのかもわかりませんでした。

「そうじゃなくて」のあとには何が続くはずだったのでしょう。ひとつ思い出せるのは、結局その人が私に求めたものはわからずじまいだったということです。「しにたい」なんて人生における最も大きな問題を私はどう受け止めたらよかったのでしょう。


連絡を取らなくなった後もその人はずっと普通に生活していました。自分の記事を更新したりもしていました。あれは何だったんだろうと思う反面、誰かが私のできなかった役割を担ったのかもしれないとも考えたりもしました。

これがもし身近にいる友人や家族だったのなら思いついたことがあったのかもしれません。何故ならそのひとたちは私にとって大切な人だからで、過ごしてきた時間というものが実際にあるからです。こういう風に言うと安心するだろうかという感覚がある程度わかっているのもあります。

対して知らない人のことは本当にわかりません。専門家へと任せることで冷たく突き放されたような気持ちにさせてしまったのでしょうか。


その後しばらくしてから距離感という概念を知りました。人と人との関係性を近付けるには段階があり、話す内容にも気をつけたほうがいいといった考え方です。知り合ったばかりだったり、深くない関係性の場合には表面的な話題から始めること。そしてお互いに信頼できる間柄になったら、自分の深いところの話をするようになっていくということらしいです。

今ならなんと言うだろうと考えてみます。やっぱりどれくらい仲がいい人なのかによって返答は全然違ってきてしまうのだと思います。大切にしている人なら尚更一生懸命伝えようとするでしょうし、心を込めた言葉を選ぶのでしょう。たとえ「そうじゃなくて」と言われたとしても、言葉を尽くしていきたいです。


ここまで読んで下さってありがとうございました。




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