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【読書感想文】村田沙耶香の『信仰』があぶりだした「とあるカルト」のカテゴリ

 カルトという言葉に苦手意識がある方は多いと思うが、英語の「cult」は多義語である。
 
「閉鎖的な新興宗教集団」の他に、「流行」「熱狂的支持」「狂信的な崇拝」「礼賛」「祭儀」などの意味も含む。
 
つまり、「祭礼」から「やや日常」まで広い場面を覆う言葉なのだ。
 
村田沙耶香の短編集『信仰』‎(文藝春秋)に収録されている表題作は、そのあたりをものすごくうまく突いていて、思わず「うわっ、そうきたか!」と声が出た。
 
登場人物は「カルトで金もうけしようとしている人」「金を搾取された経験がある人」「カルトめいたものに寄ってくる人」などなど、各人各様だ。
 
そのうちの1人は「カルトにハマれない超現実主義な人」である。
 
周りの人が、ちょっと怪しい美容法やサロンビジネスなんかに熱狂していると、冷や水をぶっかけるようなことを言う。本人はいいことをしているつもりなのに、なぜかひどく嫌われる。
 
そして、気づく。
 
自分は他人を「現実」という信仰に勧誘しているのだと。
 
人は信じたい物を信じて、見たいものを見る。推しの対象に「夢」や「理想」を投影することで、つらい日常からしばし抜け出し、気分よく暮らせる日もある。暮らしの軸足は「終わりのない日常」に置きつつ、日常を破滅させない程度に何かに没頭することは、現代では「生き方上手」の部類に入るのかもしれない。

本著は2022年の6月に出版された本だが、折しも2022年7月以降「信仰」「カルト」という言葉に注目が集まっている。
 
SNS上では、常に誰かが誰かを強い言葉で糾弾していて、先日『カルトの子』の著者であるジャーナリストが言及した「反カルトのカルト性」という言葉さえ連想することがある。
  
ちなみに、今回紹介した小説『信仰』は、テーマが少しずつ重複している短編小説集だと思って読み進めていたら、エッセイのような作品が混ざっていた。
 
多様性礼賛のカルトから読者を現実に引き戻す一編が素晴らしいので、ぜひ多くの人に読んで欲しいと思う。


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