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「アメリカ南部の隠れた歴史に人間の浅はかな欲望が潜む~『とざされた時間のかなた』~」【YA72】

『とざされた時間のかなた』 ロイス・ダンカン 著 佐藤 未果夢 訳 (評論社)
                                                     
                           2023.7.2読了

もう夏真っ盛りですね。
暑いのは本当に苦手です。
運動がニガテで汗をかくのも好きではないし、最近では夏になると自分の身体に異変が出てきて、ずっと悩まされ続けています。
(この異変は、寒くなるとピタッと引っ込むので不思議です)
でも夏嫌いでも、楽しい夏の曲を聴くのは好きです。(調子がいい…)
 
さて今回の“勝手に夏曲”は、誰もが納得してくださるであろうご機嫌で楽しい曲です。

グロリア・エステファンとマイアミ・サウンドマシーンの「Conga」です。
このライブ映像、みんなでダンスしてとっても楽しそうですね。
ラテンのノリがとても夏っぽくて、ウキウキします。
 
でもBGMがこのウキウキの曲なのに、今回ご紹介する物語はちょっと怪しいミステリーとなっています。
舞台がアメリカ南部ルイジアナ州での出来事ということで、地理的に近いフロリダの熱い風を感じるこの曲を選びました。
曲の雰囲気と話の内容はかけ離れていますので、ご了承ください。

17歳のノアは、夏休みに学校の寮があるニューイングランドから父のいるルイジアナへ向かいました。
1年前に愛する母親、つまり父にとっては妻を亡くしたばかりでしたが、突然父が再婚をして相手の女性が所有する豪邸に、女性の二人の子どもと一緒に住んでいるというのです。
あまりの展開の速さに、母親が裏切られた気がして腹が立ち全く乗り気がしなかったけど、父親の手前みんなと会うことになったのです。
 
新しい母になるリゼットは、とても美しく若々しい女性でした。
彼女の息子ゲイブはノアと同い年でとても素敵で、その妹ジョジ―は13歳で思春期の一番難しい年頃のようです。

そして女性の所有する豪邸と言うのが、『風と共に去りぬ』に描かれているような大きな家でした。
やはりかつては周りが広大なプランテーションで綿花栽培をして何人も人を雇っていた歴史がある邸でした。
 
しかし長旅でもあったし、この家に来てすぐに疲れて眠ってしまったノアは、不思議な夢を見ます。
亡くなった母が出てきて、しきりに「ここからお父さんと早く出て行きなさい!あなたたちに危険が迫っている!」と告げるのです。
いったいどういうことでしょう…。
 
もちろん本当は早く帰りたかったノアでしたが、ゲイブは魅力的で、家の周りを案内してもらったり、ちょっぴり気持ちが揺らぎ始めます。
しかし夕食の時に、ふとジョジ―が思わずもらした言葉に違和感を覚えます。
 
すると、よく観察しているとどこか何かがこの家族はおかしいとノアは感じ始めるのでした。
 
父が何度提案しても電話を頑固に引かないというリゼット。
たった一人の家事手伝いの若い女の子以外は、他人を全く寄せ付けないリゼット。
よく眠れるからと、睡眠効果のある薬草を混入したお酒・アニセットを持つゲイブ。
いつもヒステリーを起こし、母リゼットを非難するジョジ―。
 
そうしてある日、とうとうノアはゲイブによって、一緒に川で釣りをするはずだったボートから水の中に落とされてしまいます。
 
溺れているノアを助けることなくそのまま去っていくゲイブにひどく傷つき失望するノアは、どうにか流木につかまり川からあがるのですが、この時から自分はこの家族に本当に殺されると確信します。
しかし家に帰った後、興奮して理性を失いかけたために父親に上手くこのことを説明できず、リゼットからも上手くかわされ父親の信頼を逆に失いかけるノア。
 
屋根の工事で唯一この邸に出入りしていた街に住む男性デーブの力を借りて、この家と家族の謎を解こうとするノアでしたが、いよいよもっと危険な目に会ってしまいます。
 
万事休すのノアは、この家と家族から逃げることができるのでしょうか?
 
ヤングアダルト世代に共感されるエピソードも満載なサスペンス&ミステリー小説です。

この物語で、未熟なせいでつい禁忌である言葉を口走ってしまうジョジ―が、ノアにとっても大事な存在になります。

母親に行動をコントロールされ窮屈な思いをするティーンエイジャーの子どもたちの気持ちは、今の子どもたちにもよく理解できることではないでしょうか。
いろいろな制約をされ反抗期のジョジ―にとっては、苦痛きわまりない生活です。
だからよくヒステリーを起こしますが、それも訳あってのこと。
 
この思春期をジョジ―はもううんざりしているのです。
何度も何度も母に制限されるこの生活が嫌でたまりません。
ここに、この物語のキーポイントが存在します。
ネタバレになるので詳しくは書けませんが、リゼットの美しさ・若々しさにも秘密があります。
 
そしてもう一つ、かつてフランスから移民として入植してきた人たちの子孫・クレオールと、フランスからカナダを経由して入植してきた人たちの子孫・ケイジャン、そして19世紀初めナポレオンのキューバ侵略の際にフランス語を話す現地の人間がニューオリンズに移住してきた時に広めたブードゥー教の存在がこの物語には重要な関りを持っています。
 
このあたりのことは私を含めて多くの人がよく知らない歴史と事実なのかもしれませんが、この物語の中で大事なポイントにもなっていますので、簡単に説明されています。
 
この本は、初版が1990年で私が読んだ本は2010年の改訳新版です。
ですから、作中に出てくる「ディスコ」とか「電話ボックス」などは現代のティーンズには新鮮に感じるかもしれません。
「ディスコ」に関しては、今は「クラブ」に置き換えることができますが、肝心な時に誰とも連絡を取るのがスムーズにできないという状況に、今の子だったら「え?ケータイは?スマホは使わないの?」と思ってしまうかもしれませんね。
いや…当時はないのが当たり前だったから、特に不便は感じなかったものです。
時代は移ろうものですね^^
 
アメリカの知らなかった歴史を知り、いったいどうなるんだろう?とドキドキさせてくれるエンターテインメント性のある興味深い物語でした。

たくさんのYA本が出版されているので、本当に読むのが楽しいです。
(最近、日本の一般書に遠ざかっているので、そっち方面もそろそろ読みたいとは思っていますが、いかんせん読書するスピードが亀さんの私ですので、時間がいくらあっても足りないです。かといって、速読法などはきっと受け付けないと思います…天邪鬼です)

 


 


 

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