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「障がい者だと甘く見ないで!まるでサスペンスドラマ~『秘密をもてないわたし』~」【YA60】

『秘密をもてないわたし』 ペニー・ジョエルソン 著 河井 直子 訳 (KADOKAWA)
                          2023.2.11読了
 
14歳のジェマは、重度の脳性麻痺です。
手足も顔も体全体を自分で動かすことができません。話すこともできないのです。
常に車椅子に座った生活で、誰かの補助がないと生きていけません。
寝返りも打てないし、体を動かしてほしいとか、喉が渇いたとか、一人にしないでとか、熱があるとかの訴えも自分ではできません。
 
ジェマが住む家の両親は里親で、ジェマの他にも血のつながらない、やや多動がみられる9歳のオリビアと6歳の自閉症児のフィンも里子として引き取ってくれています。
ジェマを主に看てくれる介護ヘルパーのサラは、ジェマの気持ちもすごくわかってくれる大事な理解者ですし、大好きでずっと自分のそばにいてほしいと思っています。
 
そのサラの彼氏・ダンは逆に最悪で、ジェマのことを差別的な目で見ており、かける言葉もとても屈辱的なことをジェマ本人に向かって言い放つのです。
 
ある日、サラに会いに来たダンは一人でいるジェマを見るなり、ある恐ろしい秘密を打ち明けます。
ジェマが話せず体も動かせないことをいいことに、重大な秘密を話してしまいます。
 
でもジェマは話せず体が動かせなくても、頭も心も他の14歳とまったく変わらないのです。
差別的なダンは嫌いだし、恐ろしい脅しの言葉も言ってしまう彼のことが怖くてたまりません。
しかしその重大な秘密を知ってしまったからには、どうにかしてみんなに伝えないと、と考えます。
特にサラには、こんな人とは早く別れてほしいとも思っているのですが、話せないのでもどかしくて仕方ありません。
 
そんなジェマに朗報がふたつ!
一つ目は、ジェマに実は双子の姉が実在していることです。
しかし姉のジョディとの最初の面会はとても悲しいものになってしまいました。
まだジョディの心の準備が確実ではなかったようです。
ジェマの姿を目の当たりにして、ジョディは思わず逃げ出してしまいました。
 
哀しかったけれどでも、ジェマは姉の気持ちも察する優しい女の子でした。
麻痺のせいで歪んでしまった顔や手足を動かせないで座っている車椅子姿を初めて見れば仕方のないことだとわかっています。
その後、気持ちを整えたジョディからもう一度会いたいと希望してきて、今度は無事に穏やかに過ごすことができたのです。そのことに温かい喜びを覚えるジェマでした。
 
そして二つ目の朗報は、ある日支援学校で出会った博士が、重度の障がい者向けに開発途中のコミュニケーション支援機器をジェマで試してみたいと言ってくれたことです。
もしこの機械が使用できるようになれば、ジェマもみんなとコミュニケーションが、会話ができるようになるというのです。
 
なんてすばらしいことでしょう。もしそれが現実になれば、早くみんなに話したいことがあるのです。
里親や妹・弟たち、姉のジョディと話せるという喜びを表すことよりも早く“このこと”を話さなければ!
そして、ある日ジェマは危険な中に自ら近づいていくのです…。
 


 いろいろな障がい者を主人公にした物語はありますが、重度の脳性麻痺の女の子を取り上げたものはあまりなかったのではないでしょうか。
見た目だけでつい判断してしまう傾向にある私たち健常者は、彼らがどのように心の中で感じているのか想像することが難しいです。
 
この物語でも、長くジェマを介護してくれているサラはジェマの気持ちをよく理解してくれていますが、サラがある理由でジェマのそばにいられない時、かわりに雇ったヘルパーの女性は、ジェマをまるで幼稚園児扱いをしてしまいます。幼い子が聴くような童謡を聴かせたり、童話を読み聞かせしたり…。
そのことを知った里親であるママは、かんかんに怒ってそのヘルパーをクビにしました。
ジェマは他の14歳の女の子たちと同じに、かっこいいロックバンドのファンなのです。コイバナだって大好き。おまけに賢い。
当たり前のことなのに、その人のことを理解しようとせず、とんちんかんな扱いをしてしまうのです。
 
だから、ダンも彼女がしっかり聞いて頭の中でどういうことを考えているか、心の中でどういう風に思っているかを理解していたのならば、暴言を放ったりまさかの秘密を話したりはしなかったはずです。
 
 
そうしたコミュニケーションがお互いにとることができないでいるのは、ジェマにとっても苦しくイライラしてしまうものなのです。
しかし彼女のために支援機器を試しに提供したいと言ってくれた博士たちには本当に感謝でした。
 
今さまざまな支援機器、コミュニケーションをとるための機械は複数開発されています。
テレビのニュースや情報番組などでも見たことがある、目の動きで提示されたPCのディスプレイの文字を追ったり、口でタッチペンをくわえて文字盤を押したりなどその対象者に合った方法を取り入れて作られたコミュニケーションツールで、障がい者の意思がちゃんと他者にも伝わります。
 
でも体、顔、手足、指、表情でさえまったく動かすことができないジェマのような人にはどのような機器が考えられるでしょうか?
 
ジェマに残された唯一の方法、それは鼻呼吸です。
鼻で息を吸ったり吐いたりは毎日毎秒しているのです。
 
そこで考えた博士たちは、ディスプレイ画面にアプリを入れて鼻チューブの機械につなげ、チューブを対象者の鼻に装着してその意思や考えを確認することができると思いついたのです。
もちろん、ジェマもこの方法で試してみることにしました。
結果は大成功。
そして、この装置のおかげで“例の秘密”を伝えることができたのです。
 
さて、その後どうなったかはもし読まれることがありましたら、そこでご確認くださいね。
 
秘密だけでなく、里親やオリビアとフィン、サラ、そして姉のジョディへの愛ももちろんやっと伝えることができました。これが最も待ち望んだことだったかもしれませんね。
 
 
この物語はもちろんフィクションですが、ジェマの暮らしを彩りあるものにしてくれた鼻呼吸でのコミュニケーション支援機器は、実際に研究・開発されたものからヒントを得て表現されています。
まだ商品化までは至っていないようですが(この本が出版された2019年ではまだ普及してはいないようです)、ジェマのように困っている人は世界中にいますから、早くどこかの企業が開発してくれるといいなと思っています。

この本、私もつい先月に読んでみたのですが、イギリスでは子どもたちから多くの支持を得たヒット作とのことです。

 


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