「活版印刷機ができた経緯とファンタジーが交錯する~『エンデュミオン・スプリング』~」【YA㊱】
『エンデュミオン・スプリング』 マシュー・スケルトン 作 大久保 寛 訳 (新潮社)
2006.10.9読了
現代のオックスフォードと1453年のドイツ・マインツという、時代も場所も違う舞台ながら、ある不思議な本をめぐってリンクしあう物語です。
ルネサンス時代の三大発明(火薬・羅針盤・活版印刷機)のうち、グーテンベルクが発明した活版印刷機にまつわる史実と想像力をかきたてるようなフィクションを合体させ、本好きの人間は嫌が応にも引き込まれざるを得ない展開で魅了されました。
グーテンベルクが始めて発明したと言われている印刷機ですが、実はオランダの版木裁断師コスターが孫娘のために木に文字を彫って、それを包んでいたハンカチに木の樹液によって文字がついていたのを発見したのが最初らしいです。
しかしそれを印刷機にしようと製作中に泥棒にあい、その後木ではなく金属でできた印刷機がマインツで発明されました。
この物語に出てくる1453年の時代の登場人物は事実存在した歴史上の人物のようです。
ただ一人、この物語の鍵を握る「エンデュミオン・スプリング」という少年だけは、よくわからず謎が多いのをのぞいては…。
現代の舞台オックスフォードでは「エンデュミオン」と同じ年の少年、ブレークが不思議な本と出合ったがために、その本が持つ偉大な力が故の危険な事件に巻き込まれていきます。
純粋な心を持つものだけが選ばれる不思議な本との運命の出会いは、恐ろしい悪魔に魂を売ってしまうほど(ファウストの伝説)の、本を愛する蔵書コレクターでも手の届かない崇高で貴重な体験で、主人公ブレークを大きく成長させていきます…。
事実とファンタジーが混ざり合っていてミステリー仕立てでもあるので、どこまで紹介していいのか悩むのですが、本好きな方にはお勧めの物語です。
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