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「風流にして難解なれど触れてみるにいとおもしろき~『きみと詠う  江の島高校和歌部』~」【YA78】

『きみと詠う  江の島高校和歌部』 大平しおり 著 (KADOKAWA)
                                                                                                     2019/01/1読了
 
今回ご紹介するのは、このYA本紹介で初めて取り上げるライトノベル(通称ラノベ)に属します。
ひとくちにラノベと言ってもいろいろな作風・ジャンルがありますが、中高生がよく読む異世界ファンタジーや転生ものは、実は私はどうも苦手であまり読んでいません。
(年のせいでしょうね、ハイ。正直にいいますね)
 
そんなラノベのなかでも日常の生活が舞台のものやYA世代の登場人物たちが動き回る物語はよく読みました。
(仕事柄、必要に迫られたと言っても間違いではないのですが、読んでみるとけっこうおもしろい)
 
そのような私の読書傾向から選ばれた今回の物語は、高校の部活動が舞台です。
そしてお正月らしく、“和歌”を主題にしたものを選びました。
読んだのはもう5年前ですが、感じたままを記録していましたので全面的に高評価というわけではありません。
こういうものもあるのね、ぐらいの気持ちでお読みくだされば幸いです。

東京に住む小学生の和樹は、神奈川の江ノ島に住む祖母のところで夏休みを過ごし、和歌を教えてもらいます。
 
江ノ島では明日歌という少女に出会い仲良くなりました。
 
実は自分の気持を素直に出せない性分の和樹。
その後突然事故で逝ってしまった祖母との別れが辛く、明日歌とも言葉をあまり交わさずにそのまま別れて東京へ戻ってしまいます。
 
そして高校生になった和樹はやはり、心残りがある場所、江ノ島にどうしても行きたくなりました。
 
かつての祖母の家で一人暮らしをする和樹は、和歌部があると言われる江ノ島高校に行くことにしました。
なぜなら、もしかしたらあの頃一緒に和歌を習った明日歌がいるかもしれないと思ったから。
心残りを解消したく江ノ島高校へ行くと、和歌部はすでに廃部となっていたのです。
 
気落ちする和樹の目に、着物姿の女子生徒がおもわず入り込みます。
その女子生徒こそ、明日歌でした。
やはり彼女はそこにいたのでした。廃部となった和歌部を再び創設するために。
 
結局、明日歌と再開を果たした和樹は、ともに部活のメンバーを集めることにします。
そして、どうにか創部のために必要な部員の人数を確保した彼らは、部活の予算が逼迫していることもあり、その年の大会で優勝しないと再び廃部となってしまう危機に陥ります。
 
祖母への思い、明日歌への思い、そして部員たちの思いをのせて、そこから和樹の和歌の世界が溢れ出します。

五・七・五・七・七で読む短歌…その中で、古語を用いて詠むものを和歌と分別するそうです。
風流でありながら、一般には難解になりがちな和歌ですが、この本では物語の中で歌を詠む上で大切な決まりごと(レトリック)を説明してくれます。
 
作中詠まれる和歌の解説はきちんとなされているので、和歌についてよくわからない初心者でも理解はしやすいようになっています。
 
しかし実際に詠んでみないと、この物語をただ読んだだけでは、その手法はややわかりにくいでしょうね。
お話の内容も、祖母や明日歌への思いをからめるのはいいのですが、流れがあまりにあっさりしていてもったいない気もします。
 
創部間もない中で集めた初心者のメンバーたちがあまりに早く和歌を身につけるし、大会でもあれよあれよと簡単に勝ち進んでいくのに、多少違和感があります。
 
青春小説としては爽やかで好感は持てるのですが、もう少し起伏をつけて盛り上がるようにできていてもいいのにと思いました。
 
早くから俳句ブームが起き、そして今(「サラダ記念日」の頃から)再び短歌・和歌がブームになっているので、せっかくだからもっととっつきやすい表現でも良かったのかな、なんて。
展開ももっとアップダウンのある流れがあってもよかったと思います。
やはり現代の短歌とは違い、和歌には約束事もあり、言葉も馴染みの薄い古語で難しい。
まずはその古語を学び直さなければいけないなと思わされたのでした。


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