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映画の話588 関心領域

 アウシュヴィッツ収容所所長のルドルフ•ヘス一家の日常生活が描かれています。豪華な家、美しい庭、家族のふれあい。
 でも、本当に描いているのは、その塀の向こう側から聴こえてくる「音」です。小さく響く怒鳴り声と叫び声、子供の泣き声、乾いた音。
 この映画は、見えない虐殺の光景を、生活音に紛れて漏れ聞こえる微かな「音」を通して表現していて、鑑賞者は自分自身の頭の中で視覚化してこの映画の織りなす光景を「視る」という仕掛けだと思いました。「関心領域」の原題「The Zone of Interest」は、ルドルフ•ヘス一家を始めとした当時のドイツ市民の関心領域と共に、この映画を観る者の関心領域とのズレを見事に描いていると思いました。私たちの日常生活の中で見えているのに視ていないものや、聞こえているのに聴いていないものが、実はたくさんあると思った時、そこに1番ゾッとしました。
 素晴らしい映画だと思います。

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