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金澤流都
2024年6月30日 09:38
(承前) キジ太郎は落ち込んでいた。寝言でぴいぴいと夜泣きするほど落ち込んでいた。 チャチビがいなかったのがショックだったのだ。猫族の男親が子猫にこうまで執着するのは珍しい。たいてい女親に子猫を全て任せて働いているからだ。そもそもチャチビはキジ太郎の子供ではないのだが。「いつまで落ち込んでんだよ。落ち込む気持ちはわからんでもないが、なんでそんなに執着するんだ」 シロベエに静かに諭され
2024年6月23日 09:36
(承前) 影の魔族にさらわれたチャチビを追いかけて、キジ太郎たちはなにやら不気味な渓谷にいた。空気がドンヨリと澱み、なにやら不穏な雰囲気で、血生臭い匂いが鼻を突く。 風が吹いて、一瞬霧が薄れた。霧の向こうには、不気味な塔が建っていた。「どうすんだ、いくのかあれに」 シロベエが眉間に皺をよせた。(ここでいかねば勇者ではない) シャム蔵が真剣な顔をする。「でも魔族の子供をそこま
2024年6月16日 09:38
(承前) チャチビは、恐ろしいほどスクスクと育った。キジ太郎の感覚では、あきらかに猫の子供とは違う速度に感じられたが、仲間たちは子猫というものを間近で見る機会がなく、シャム蔵が子猫の成長速度を知識として知っていただけだったので、誰も気にしなかった。 しかしそれにしても成長が著しすぎる。チャチビはあっという間に歩いて一同の旅についてこられるようになった。いつもふところに抱えていたキジ太郎として
2024年6月9日 09:39
魔族の子であるチャチビは、意外なことに猫であるキジ太郎一行と同じものを食べたがり、猫と同じように過ごそうとした。 チャチビはなかなか賢くて、太陽の高さを見て「まんまー」と騒いだり、日が沈むと「ねむたいー」とぐずったりした。 その育つ様子はふつうの猫の子と何ら変わるところはなかった。ただ、尻尾の先についた口にギザギザの歯が生えて、それだけがチャチビが猫でなく魔族であると示していた。 チャチビ
2024年6月2日 09:39
滅びた都市で、一同はずっと考えていた。猫という平和主義の種族を争いに向かわせたのは、いったい何者なのだろうか。 考えれば考えるほど難しい。猫の権力者だろうか。しかし猫はそもそも戦争ということを考えない。「もしかして、猫同士を争わせるのが、魔族の本領なんじゃないのかなあ」 キジ太郎がそう呟くと、一同「ふむ……」と考え込んだ。だが考えているうちに面倒になって、キジ太郎含めて全員考えるのをや