ヘドロの創作 2024/6/2
滅びた都市で、一同はずっと考えていた。猫という平和主義の種族を争いに向かわせたのは、いったい何者なのだろうか。
考えれば考えるほど難しい。猫の権力者だろうか。しかし猫はそもそも戦争ということを考えない。
「もしかして、猫同士を争わせるのが、魔族の本領なんじゃないのかなあ」
キジ太郎がそう呟くと、一同「ふむ……」と考え込んだ。だが考えているうちに面倒になって、キジ太郎含めて全員考えるのをやめた。猫なので。
猫という種族は自分に関わりあることなら真面目にずっと考えることができるが、関係のないことならすぐ考えるのをやめてしまう。だから、この猫勇者パーティがぼんやりと魔族について考えるには限度があった。
しかしキジ太郎の言った「猫同士を争わせるのが魔族の本領」という考えは、一同を納得させることができた。
一同は滅びた街を立ち去ろうと歩き出した。そのときかすかに物陰から、「おかあ、さん」という言葉が聞こえて、一同はばっと振り返った。山積みになったがれきの陰から、その声は聞こえていた。
「やだ……お化け?」
クロ美が鼻のあたりにシワをよせた。
(子猫だ)
シャム蔵が目をすがめた。
「しかしよ、こんなところに子供がいるか? 捨て子……か?」
シロベエは鼻をすんすんさせた。
「とにかく行ってみよう」
キジ太郎はてくてくと声の聞こえたガレキの山を覗き込んだ。
卵の殻がちらばっていて、割れた卵から小さな子猫が顔を出していた。それを見たクロ美がおぞましいものを見る顔をした。
「魔族の幼体だわ」
「これが魔族? どうみても子猫じゃないか」
「あのねえキジ太郎、猫は卵からは生まれないのよ」
「いやそれは分かるんだけど、だとしても子猫にしか見えないよ」
魔族の子供はどう見ても猫の子であった。茶トラの体に青い目をしている。ぴいぴいと喉を鳴らして、魔族の子供は鳴いた。
「お、かあ、さん」
「……どうする?」
キジ太郎が他のみんなの顔を見る。
「どうするって……魔族なんだからほっといたってどうということはないだろ」
(しかし魔族とはいえこんな幼い子供を放置するのは猫の美学にもとることだ)
「でも魔族よ?」
「……あのさ。人質として連れていくのはどうかな。とてもとてもほったらかしにはできないよ。魔族に襲われそうになったらこの子をどうにかしちゃうぞって脅すんだ」
「仮に魔族が『どうにでもしろ』って言ったらどうにかできるの?」
「できないけど……」
キジ太郎はしょんぼりとそう呟いた。
「でも、ここに放っておくよりは、ずっといい結果になると思うんだよ」
そういうわけで、キジ太郎は魔族の子供を抱えあげた。魔族の子供は郷里に残してきた幼い弟を想起させたが、しっぽの先が口になっていて、この子供は魔族だということがよく分かった。
「名前は……そうだな、チャチビだ」
「ちゃ……ちび……?」
「そうだ。お前はきょうからチャチビだ。いいか、僕たちがチャチビの親だからな」
「ニャーオ」
チャチビは嬉しそうに鳴いた。(つづく)
◇◇◇◇
おまけ
けさ聡太くんは激しくゆで卵を要求していた。母氏がほんのちょっと分けてやったようだが、それでも欲しがるのでケージに入れられていた。
なんで聡太くんはゆで卵が好きなのだろう。分からないが大騒ぎをしていた。いまはスヤンコと寝ている。
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