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茶人に茶道コンテンツを作ってもらう方法

 前回のnote「企業に苦しむ個人活動家(茶の湯)の願い」の反響が普段の数倍ありました。私は人付き合いが本当に苦手であるため、毎度起こる問題の原因のほとんどは私の未熟さにあると思っていました。しかし、皆様も同じ経験があったとお寄せ頂けたことに、少しホッとしております。
 しかし、「あいつらどうせわかんねえよ」と、一方的に企業の担当者を責めていても仕方がないので、もし茶道を知らない担当者が、文化人、特に茶道に関わる人と仕事を共にするときに、このように言ってくれたらやりやすいよ、ということをまとめておこうと思います。

●茶道コンテンツに必要なもの

 まず、茶道コンテンツを依頼される場合、以下のように条件を絞ってくれるとありがたいです。簡単です。

①誰に対してか
②テーマは何か
③経費はどれくらいか
④季節はいつか
⑤場所はどこか


 これを読んでいる人々はびっくりするかもしれませんが、この条件を提示してもらえることは本当に少ないです。せめて、①〜③は絶対条件であると思います。これって、茶道限らず、一般的なコンテンツを依頼するときも、当たり前に提示されるものだと思いますが、文化面に対する謙遜なのか、丸投げされてしまうことが多いのが現実です。④、⑤についてはこちらから提案もできますが、①〜③に関してはこちらからは提案できません。文化も、一般的な仕事も、みんな必要なものは同じです。
 また、勘違いされる方も多いのですが、①と②はコンテンツ全体の話ではありません。そのコンテンツの中での茶道の役割を示すための①と②ということです。

「〜〜というコンテンツを今作っているので、茶道はこんな役割を担ってほしい。①対象の人は〜〜で、②テーマは〜〜です。③予算はこんな感じで!」

 これだけで良いのです。たったこれだけ。
 あとは、①対象の人、つまりは客人のために、②テーマを基にしてコンテンツ(茶会、講座)を必死に作ります。③によって、その濃度や工夫の方法が変わります。④、⑤があれば、より具体性が増すので、そこに合わせたものにします。もしそれでダメなら茶人の責任です。別の茶人を探しましょう。

 茶道はいつでもどこでも自由自在にコンテンツが作れますが、それはあくまでも①〜④の条件が揃っているという前提があることを認識して頂けると助かります。条件がなければ、自由は生まれないのです。

●茶会を依頼するときの条件

 もし茶会を作ってもらうとしたら、上記の条件の他に以下の情報があれば、さらに良い茶会ができます。

①会場の情報(どんな建物か、図面、火器の可否、など)
②水屋の有無(茶会の準備をするときに必ず必要です)
③経費(ギャランティの最低保証は必ずつけること)


 ①は言わずもがな。

 ②水屋は非常に重要です。水屋の有無でできることが変わります。茶会本番を決定づける場所は、茶席ではなく、水屋であることをぜひご認識ください。

 ③についてですが、一般的に見たら不思議なことに思うかもしれませんが、この業界、技術がある人ほど、自分の技術的価値を知らないので、ボランティア精神で仕事を請け負ってしまう傾向があります。それは業界の価値を下げることになりますし、それだけで食べようとしている若い人の芽をつむことに他ならないため、やめてほしいのが正直なところです。なぜか技術の世界は、プライドは高い割に、すぐにソーシャルダンピングするのです。それが善意によって行われれば行われるほど非常に悪い影響を業界に与えます。ものすごく美味しい料理を無料で提供する食堂を作って、他の近隣の料理屋を軒並み潰す行為のようなものです。技術を持つ人は、正規の金額を、正しく受け取りましょう。それからボランティア活動にまわしましょう。

 また、茶会であると大抵は、参加者人数×参加料からパーセンテージ(依頼者の取り分)を引いた金額で、経費もギャランティも賄ってくれ、と言われます。

……リスク高すぎます

 こちとら、常に茶会やイベントをして暮らしているわけではないのです。しかも集客はこちら任せなことも多い。「実際の集客と運営と経費計算はそちらにお任せしますね、告知料としてパーセンテージはもらいます」と当たり前のように言われます。それは無理なお願いです
 コンテンツをお願いするなら、先にギャランティ(最低保証)、経費の予算を示して頂かないと、妄想だけが膨らんで、最後急速に萎んでしまうことが多いです。企業どうしでは決してそうではないのに、個人となると簡単にタダ働きを要求してくるのは本当に謎です。大体、ここあたりで担当者と戦争します。
 前回も書きましたが、お茶会をするときの一般的な経費は以下の通りです。これから茶人や茶道家に茶会を依頼しようとしている方がいたら、必ずお目通しを。


交通費(道具を運ぶ場合は運搬費)
衣服代(着物クリーニング)
消耗品代(茶筅、柄杓、懐紙、菓子、抹茶)
人件費(手伝いの人)
場所代(茶室、水屋)
教授料(ギャランティ)


●講座やワークショップを依頼するときの条件

 講座やワークショップの場合、茶会に比べると経費などを低めに抑えられます。全体としての準備もそこまで大掛かりでなくても良いですし、茶室でない場合がほとんどです。
 そのため、茶会以上に、コンテンツの「質」が試されることとなります。そのために必要なものは以下です。

①参加者の情報(人数、目的)
②座学型or体験型
③使用できる機器
④経費

 ①についてですが、茶道の要素(茶、道具、建築、料理、花、香、歴史、人物など)は非常に多岐に渡りますので、コンテンツのテーマが決まっていたとしても、参加者がいったいどんなことに興味を持って参加されたかを知ることで、より満足度の高いコンテンツを作ることができます。選択式でも筆記式でも、どんなに簡単なものでも良いので、名前以外に情報が少しだけでもあるとありがたいです。
 ②は、知識を持って帰るのか、体験を持って帰るのか、をはっきりしておいて頂くとまたありがたいです。知識を持って帰るのであれば、引用や参考の文献を載せた学術的な観点から、かしこまったコンテンツを作成します。体験型であれば、体験の意味性(なぜ茶碗を回すのか、なぜ茶を飲むのかなど)に重点を置いて、コンテンツを作成します。
 ③は、水屋事情もさることながら、プロジェクターやイス、テーブルの数などのことです。進行に関わり、その会場にあって使用できるものは、すべて教えてほしいところです。
 ④経費は先述した通りです。


●まとめ

 当たり前のことを、書いただけのような気がします。
 しかしこの問題の原因を考えると、もちろん企業側の理解のなさもさることながら、ほとんどのコンテンツを非言語、不文律、秘匿、秘伝などにおさめてきた茶道側にも責任が大いにあるんだろうな、と思います。「茶道文化の大切なもの」には「大切だよ」としか言及せず、「こんなお稽古、こんなお茶会してます」というレポート的な風景だけを世間に見せ続けたツケが、今、我々に回ってきているのです。
 例えば、定期的に茶会や喫茶風景を写真で載せている人いますけど、何がそのとき大切だったかを言語化する方はほとんどいません(毎回されたら困りますが)。大切なことを訴え続けなければ、誰もわかりません。家元も、教授者も、茶道愛好家も、皆が同じようなことしか言わないというのは、社会に対して非常に失礼なことです。
 また、言語化することで、何かが損なわれるという人がいますが(特に茶道界は多い)、言語化したところで損なわれるものだったら、そもそもやらない方が良いと思っています。また、言語化できないものの中にこそ大切なものがあることは、世間一般、皆さん承知の上だと思うので、ぜひ一度でも良いので、なぜそれが大切なのかを語って頂けたら、私はとても嬉しいし、今回テーマとした企業の担当者の方にも伝わると思います。それは、誰であっても良いのです。


 どうか、循環する社会の一部として、茶道文化がより良く作用する世の中になることを願います。

武井 宗道

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