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『連載 椅子のない部屋』vol.6 金曜日

ひょんなことから彼氏でもなんでもない人と一緒に住むことになった。
1週間くらいの期間限定。今日決まったことなのに、何故こうなったかは思い出せない

休みの日はただ体を休めるためにあった。
いつも通りの時間に起きて、布団でごにゃごにゃ。
二度寝しても慌てなくていい。
「体を休める」ために外にはあまり出ない。
疲れるから極力人に会わない。
読書して、テレビ見て、たまに出かけて、ご飯食べて、寝る。
そんな休日が結構好きだった。

金曜日に特別な期待を抱かない。
仕事とプライベートの境目を作りたくなかった。
オンオフの切り替えベタと言うよりも、
月曜日からの日々へのエネルギーをあまり多く作り出さないようにするため。
ゼロから気持ちを作り始めるのは大変だからだ。

それがどっこい、
人と暮らすと休みが楽しみになる。

2人でどう過ごそう。
あの人は出かけるのだろうか。
出かけるのならば、1人でしか出来ないことをとことんやろう。

そんなふうに考えが及ぶ。

お互い一人の時間も欲しい人間だから、
一緒に住んでいることを気にしない時間も大事だ。

ということで、ワタナベくんが歯医者に出掛けた隙をついて文章を書いている。

人の家に住み着いてるくせに、ベッドに横たわって大胆に書いている。笑

この奇妙な同棲生活もあと少しで終わり。
お昼ご飯を食べて、お別れ。

今日の朝、また気がついたことを話した。
一緒に話を共有出来るのが、恋人でもなんでもない私たちの救いだった。

相手を知りたい、面白い、気になる。
毎日がその繰り返しだった。

「ワタナベくんの好きな方で」
「ワタナベくんはどう思う?」
「ワタナベくん、これ嫌い?」

何度も質問を繰り返して、相手をさぐった。
今は少しわかるようになった。

そうは言っても人はわからない。
最後に刺されるかもしれないし、同棲が終わった瞬間せいせいしているかもしれない。

とはいえ、この誰にも理解されないであろう生活は、ぼんやりとした『他者と暮らす』ことを教えてくれた。

刺激のない私にとって、素敵な1週間になった。

かなも。

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