荷物のおろし方 岸見一郎、古賀史健著「嫌われる勇気」

 インパクトの強いタイトルと、目を引く青の表紙。本好きの方に、本書を目にしたことのない方はいないだろう。世の成功者の多くが「他人の目など気にせず、自分の好きなように生きろ」と言ってくる。しかし、どうしても人の目は気になる。特に身近な人には好かれたい。そんな自分を変えるヒントが得られれば、と本書を手に取った。

 本書は300ページ近いページ数があるが、哲人と悩みを持つ青年の二人が議論する形式で書かれ、その議論を通してアドラーの思想を学べるようになっており、ページ数ほどの負担感はなく簡単に読める。

 多くの人が自分を変えないことを正当化するために、因果関係を使っている、というやり取りには膝を打った。例えば、自分は学歴がないからうまく行かないのだ、という話をよく耳にする。「だから勉強しよう」というのは前向きだが、そうではなく、学歴がないからうまく行かないのだ、ということにしておけば、自分を変える必要がなく、都合がいいと逃げの口実にしてはいないだろうか。

 他にも、自分が変えられるのは自分だけであり、他人を変えようとするのは不自然である。それは親子関係においても変わらない。自分が正しいことを認めてもらうこと、自分を好きになってもらうことは、自分ではどうすることもできない。自分は他者の欲求を満たすため、すなわち承認欲求を満たすために生きているわけではない。他者の課題に踏み込まず、自分の課題に踏み込ませない。自分が変えたいと思っていることは、勇気を持って変える。人は縦の関係と横の関係を場合によって使い分けられるほど器用ではなく、すべての人間関係がそのどちらかになる。他者を信じる時に一切の条件をつけたり、見返りを求めたりすることをせず、ある種の諦めを持って相手を信頼する。人生とは連続する刹那であり、「いま、ここ」に強烈なスポットライトを当て、今を生きる。幸福とは他者への貢献感を得ることである。人生に一般化できる意味などなく、意味は自分自身が見出すものだ。など、多くの胸に刺さるフレーズが出てきた。興味が湧いた人は一読を。

 人それぞれに大事な人生があり、そうした“人”が絡み合ってこの世ができているのだから、そりゃあこの世は複雑になる。他人から好かれたいとは思うけれど、他人の気持ちまでコントロールしようとするのは自分の能力の限界を超えている。自分が他者に貢献できていると実感できれば、もはや、他者の承認は不要だ。そんな“肯定的なあきらめ”を持つことが大事だと理解した。これからは少し肩の荷を下ろし、力を抜いた自分になれるといいなあ。すぐに他人から“嫌われる勇気”を持つことは難しいだろうけど。

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