超複雑系の教科書 岡田武史著 「岡田メソッド」

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 今さらながら、Jリーグ開幕後の日本サッカーの発展は目覚ましい。Jリーグ開幕イヤーにサッカーを始めた私は、その過程を目の当たりにしてきた、最も幸せな世代だと思っている。先日のブラジル戦のTV中継で、「ネイマールが本気を出しています!」という実況を耳にしたが、日本は世界中どこの国でも、手抜きをして勝てる相手ではなくなったのだろう。

 我が国のレベルアップには、やはり育成年代のレベルアップが必要で、そのためには、小さい頃から質の高い試合の経験をたくさん積むことが重要となる。従って、サッカー人口の裾野を広げ、草の根のレベルを高め、地区大会の1回戦から質の高い試合にすることが求められる。となれば、必然的に指導者のレベルも底上げが必要となるが、本書はそのための教科書といえるものだ。

 さて、ベンチウォーマーとして長年プレイしてきた経験と、社会人になってから物事を深く考えてきた経験を組み合わせた結果、いかにサッカーが複雑怪奇なものかその一端が見えてきた。人それぞれに「いい選手」像はあるだろうが、「止めて蹴る」ことがすべての基礎であることに異論はないだろう。また、私も子どもの頃から、そうした指導を受けてきた。そして、とにかくボールを触り、うまく扱えるようになるよう努力を重ねてきた。ボールをうまく扱えない限りサッカーにはならないので、それが誤りとは言わないが、今になればただ「止めて蹴る」のではなく、もう少し一つ一つのプレーに頭を使わせることが必要だったとわかる。ボールを止めることは前提で、体のどの部分でボールを触り、どのような体の向きで、どのような回転でどこにボールを落とすのか。次のプレーは誰にどんな動きをしてもらうためにどんなパスを出すのか。そんなことを意識するようにすれば、何気ない一つのプレーにも何百、何千、何万という選択肢があることが見えてくる。それを日々の練習で意識するのとしないのでは、長期的には大きな差が出る。過去の自分はこうした意識が足りなかったと反省することしきり。

 そんな超複雑系のスポーツであるサッカーだが、そうした丁寧な指導を育成年代から行ってきた成果が、最近の日本サッカーのレペルアップに寄与してきたことは想像に難くない。小学生の息子がサッカーをやっているが、彼に有益なアドバイスをできるように、私ももう少し深くサッカーを知りたくなった。そんな折、書店で見つけたのが本書。作者は岡田武史。言わずとしれたサッカー日本代表が初めて参戦したフランス、自国開催以外で初めて予選リーグを突破した南アフリカの2度W杯を率いた、日本が世界に誇る名将である。ちなみに私は札幌出身であり、岡田氏がW杯後はじめて率いたチームがコンサドーレ札幌であるので、思い出深い。今でこそJ1に定着しているコンサドーレであるが、長くJ2とJ1を行き来する、いわゆるエレベータークラブであった。そんな中で、彼はコンサドーレをJ1に残留させた初の監督である(2001年)。その後、J1に残留するには2017年まで待たなければならなかったことを考えると、その手腕の確かさがよくわかる。そんな岡田氏の指導哲学を学べるとあって、本書に飛びついた。

 本書はいわゆる「守破離」をサッカーに適用させるために、日本サッカーの「守」となる型を整理したものである。これを育成年代にしっかり身につければ(守)、その上で各自が状況に応じた独創性溢れるサッカーを展開できるようになり(破離)、ひいては日本サッカーのレベルアップにつながることが期待できる。「自由なサッカー」では、育成年代は逆に不自由になるのだろう。

 本書はゾーンやエリア、レーンの分類、攻守ごとの優先順位や一般原則など、外からはボーッと見てしまいがちなプロのプレイを、とても論理的に分かりやすく記載している。本書を読むだけで、サッカーの観戦IQがUPすることは請け合い。指導の機会がないサッカーフリークにとっても、一読の価値あり。また、サッカーに興味ないビジネスマンにとっても、コーチングのスキルやチームマネジメントのやり方、PDCAサイクルの回し方など、参考になる箇所が多くあることだろう。

 ブラジルやドイツなどの伝統的な強豪国には、その国独自の伝統が脈々と受け継がれていると思うが、それだけではなく、本書に書かれているような基本が無意識レベルで身についているのではないだろうか。W杯に出場し、予選リーグを突破した。また、世界のトップクラブ所属の選手も増えてきた。本書を読み込んだ指導者に教わった選手がこれから増えていけば、きっとW杯てベスト8、4、そして優勝と、日本代表が壁を破っていく夢を私は本書に見るのである。


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