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国籍や国境を越えたその先 ③バイク

吉田修一さんの小説『路(ルウ)』にはグァバ畑や農道をスクーターで走る場面が何度か描かれている。
グァバ畑を実際に見た記憶はないが、この小説を読んでいると南国特有の熱い陽射しを受けて青々と葉を茂げらせたグァバ畑の農道が目の前に浮かび、育っている果物の新鮮な香りや熟して地面に落ちたグァバが放つ甘い匂いさえも漂ってきそうで、自分がスクーターにまたがって台湾を走っているような気分になった。

『路』を読んで台湾をまた訪れたい気持ちが一層強くなり、台湾に行ったら次は都市部と観光名所だけでなく、郊外や農村部も巡りたいという思いが強まった。
もちろん小説に出てくる台湾高速鉄道(台湾新幹線)にも乗ってみたいが、時間が許す限り自転車で台湾を一周する「環島(ホァンダオ)」にも挑戦してみたい。
現在愛用している自転車が台湾メーカーのGIANT製ということもあり、台北に着いたら現地でバイクを調達し、そのまま台湾島を北から南へ縦断したいと考えている。

私は決して自転車マニアではないし高額の自転車に乗っているわけではないが、神戸、オレゴン州ポートランド、東京、カナダのバンクーバーなど、今まで住んだ街では必ず自転車を購入し、通勤や買い物時の移動手段としてだけでなく、遠出のサイクリングを楽しんだり、トライアスロンの大会に出たり、自転車は生活必需品であると同時に暮らしを豊かにしてくれる重要アイテムだった。

そんな私の自転車人生のなかで、最もバイクに夢中になったのが中学生の頃であり、外国人、中国人ということを意識させられるハプニングが起こったのも自転車を通してだった。

映画E.T.の影響を受けて中学二年の時に買ってもらったBMX(Bicycle Motorcrossモトクロスバイス)を毎日のように乗り回していたある日、日が暮れるまで友達とBMXにのって裏山で遊び終えて帰宅する途中、ライトが付いていない、ということでお巡りさんに走行を止められた。
大抵のBMXがそうであるように、ボクのBMXにもライトはついていなかったからだ。
警察官はボクの名前と学校名を聞き、住所も聞いてボードに乗せた用紙に書き込んでから、
「君、中国人か。このバイクはどうしたんや?」と単刀直入に聞いて来た。「え?このバイクは買ってもらいました」
「誰に」
「親にです」
「本当か?」
「はい、本当です」
と答えたが、警官はボクの目をじぃっと睨むように見続ける。
「ほな、お父さんお母さんに確かめてもいいか?」
(それって、ぼくがこのバイクを盗んだみたいな言い方やん)と声には出さなかったが、中学のボクでも警官が自分を疑っていることはすぐに分かった。
「はい、いいですよ」
バイクならすぐに着く家までの道のり。
何も悪いことをしていないので、警官に対してビクビクするようなことはなかったが、自転車を手で推しながら警察官と並んで家がある山本通り沿いを歩いてる時間のなんとも長く感じたことか。警察と並んで歩かされてるところを級友や老師(学校の先生)に見られたらどないすんねん、とヒヤヒヤしていた。

ピンポーン!家のインターホンを鳴らす。
玄関のドアを開けた母はボクの隣に警察官がいることにハッと驚き、
「この子が何かしでかしたんですか?」と慌てて警官に尋ねた。
警官はライトがない自転車のようですので付けてあげてください、と言ったあと、「この自転車はいつごろ買われたんですか?」と尋ねた。
それを聞いたボクは(大人の母親にはストレートに「ホントに親御さんが買ったんですか?」と尋ねないか、なんじゃこの警官、ズルいやんけ!)とムカついた。
「クリスマスに買いましたけど、なにか」と答える母。
「いえ、それなら結構です」
と警察は去って行ったが、母はすぐになぜ家まで警察が来たかを理解した様子だった。
「ホンマにバカにしてるなぁ。私らが中国人やからって盗んだと思ってるんや」と晩御飯までの短い間ではあったが、「日本人に対してこんなことするか!ふざけんといてほしいな!何も悪いことしてないのに!何を疑ってるんや!」とボク以上にプンプンと怒りを爆発させてくれたのが可笑しくもあり、嬉しくもあった。
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とまぁ、家の玄関をズカズカ越えてきた警察官でしたが、なかなか国籍と国境を越えたその先の境地に辿り着けませんね。のんびり書いて行こうと思っています。続きもお読み下されば幸いです。

中学時代のBMXを乗り回していた親友と広島へ。右の赤いトレーナーが筆者。


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