見出し画像

「救いの物語」研究のための方法論的試論-双極性Ⅱ型の事例研究を通じて

まずは、該当論文は、こちらです。
(※ダウンロードできます)

以下、こちら小論文の目的を、本文から引用します。

本稿の目的は、患者がどのような人生を歩み、「病い」を抱えるに至っ
たのかという患者の物語と、診察の場における医師とのやりとりという物語
の2つの物語に光を当て、医療は患者の物語の何を医学的なデータとして扱
い、何を捨象したのか、医師とのやりとりによってどのような「物語り」
が創造されたのかを事例研究を通して方法論的に論じることである。

タイトルの論文より

次に、本小論文は「双極性障害」についての概略を示す。

また、日本を代表する双極性障害の研究者である理化学研究所の加藤忠史
は双極性障害にⅠ型とⅡ型があることに言及し、「双極Ⅰ型障害というのは、
入院が必要になるほど激しく、放っておいたら本人の人生が台無しになって
しまうようなひどい躁状態、そしてうつ状態を繰り返すもので(中略)双
極Ⅱ型障害というのは本人も困らない程度の軽い躁状態である『軽躁状態』
と、うつ状態を繰り返す」(加藤 2009:18)と説明している。
しかし、今日では、このようにⅠ型Ⅱ型を明確に隔てるよりも、単極性う
つ病から双極性障害、さらに単極性躁病までを一連のスペクトラムとして捉
える考え方が広まっている(Rif and Ghaemi ed 2006=2013:16)。

タイトルの論文より

この語、小論では「語りの内容分析」について言及している。

トッドらは、Ⅰ型Ⅱ型双方を含む12人の双極性障害患者にフォーカスグ
ループインタビューを行い、自己管理と、回復の個人的な体験に関する語り
を収集している。
トッドらは患者の語りの会話分析を行い、4つのキーテーマ(1.回復は
症状がないということではない、2.回復は自身の健康に責任を負うことを
必要とする、3.自己管理:生きる術の構築、4.回復の妨げとなるものの
克服:消極性、スティグマ、タブー)を特定し、患者にとっての双極性障害
の回復は医学的に定義される回復とは異なることを示唆している。
ここで注目すべきは、症例研究や疾患言説の分析からは明らかにできな
い、医学的回復とは異なるものを患者の語りの中から抽出している点であ
る。
トッドらは「(回復は)医学の専門家が言うだろうことにかかわらず、実
際は我々自身に関する個々の見解だ」、「医学モデルを理解し、その外側を考える(中略)それは回復へ向かう道だ(中略)医学モデルは慢性疾患を扱うが、回復へは導かない」といった患者の語りを引用し、それらを「病の向こう側を見る能力」(Todd 2012:118)だと論じている。

タイトルの論文より

上記の文章では「患者にとっての双極性障害の回復は医学的に定義される回復とは異なることを示唆している」という着眼が、当事者の私からすると、頷ける見解であると、とても納得できた。

本小論文の「結論」は、以下である。

本稿は「病い」の物語研究における方法論に注目し、物語研究には、クラ
インマン、トッドら、ボシュナーに見られる統合的アプローチと、フラン
ク、サマリンら、アトキンソンが主張する分析的アプローチの2つがあるこ
とを概説した。さらに、ブリークレイの先行研究を基に上記2つのアプロー
チを併用した、双極性障害患者の物語の記述を試みた。
上記の方法を用いることで、患者の人生という連続時間における物語と、
医師らの診察という離散時間における挿話を抽出することに成功した。その
結果、医師らが何をデータとして抽出し、何を捨象したのか、また医師らの
傾聴態度が患者に与えた影響と、その帰結としての「物語り」の創造の成否
が明らかになった。

タイトルの論文より

この結論部分で明らかなように、本論は「物語」研究のための方法論的試論として、少しばかり「物語研究」という分野に精通していないと、その記述内容への理解が深まらないばかりか、場合によっては理解不能に陥る可能性も否定できないが、前述したように、「患者にとっての双極性障害の回復は医学的に定義される回復とは異なることを示唆している」という指摘を行った、その意義は大きいように思われる。

つまりは、医学書に書かれている「双極性障害」に関する知識を、如何に散見し、情報を増やしても、患者本人の、双極性障害からの回復とは、必ずしも関係性がない…ないしは無関係である…という意味である。

この点を理解した上で、双極性障害の当事者は、双極性障害について書かれている文献を読むに値するかどうか、判断する必要があるのではないだろうか?

これが家族や、当事者の周囲にある友人や知人であれば、双極性障害に関する「一般書」の知識で十分である…ということ。

「専門書」や「学術書」で求められる知的難易度は、それが、いくら学習効果により読解力が向上し、理解が容易くなったとしても、必ずしも、双極性障害の「当事者」や「家族」が求める情報とは異なる…ということである。

将来、精神保健福祉士(PSW)になる以上の知識を、双極性障害の知識のみを「深掘り」した場合には得ることになるが、精神科医を目指すことのない人生設計の読者層にとって、学術論文を読むことの意味を、しっかりと判断し、その該当する論文全体の中から、最小限、必要な情報を抜き取る能力を目指すのが望ましい…と思われる所以が、ここにある。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?