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学歴社会において放送大学は自己実現の役に立つか

「虎穴に入らずんば虎子を得ず」

前期を終えて感想を一言で言うとすればそんなところだろうか。

このあたりで放送大学の入学を検討している人向けにいったん総括をしたいと思う。
私は2019年から放送大学に在籍している全科履修生だ。
学位としては2006年に東京農業大学を卒業しているため学士号は持っており、
単純に知識を増やしたくて放送大学に編入した。
今まで受講した授業は
放送授業:疾病の回復に役立つ薬、舞台芸術の魅力、民法、刑法、行政法、障害者・障害児心理学
面接授業:現代社会と原子力、現代社会と宗教、がん哲学外来、実践で学ぶ野菜と果物の栽培法、光合成微生物とその利用、ゲーム情報学、神社と神道の基礎知識
だ。
2024年度の前期は放送授業は履修せず、面接授業だけを履修した。

まずいきなり結論

  • 30代前半までの人は行けるなら妥協せず普通の大学に行った方がいいと思う

  • 現在不登校だったり精神や身体的な病気がある人にはもちろんおすすめ

  • 学歴コンプがあるなら放送大学を検討するより心の状態を良くする方が近道では

  • 人生に行き詰まりを感じておりなんとなく広範な知識や教養に渇望感のある人には間違いなくおすすめ

  • 就活に有利な大学かは疑問

一つづつ掘り下げていく。

30代前半までの人なら行けるなら妥協せず普通の大学に行くのがいいと思う理由


というのも、放送大学の学生には高齢者が多い。
キャンパスもオフィスビルのテナントだったり、ある大学の一区画に寄生したりする感じだ。
なので学食も購買もないし、
有名大学の絢爛豪華な建物を闊歩する楽しみを味わうことはできない。
ド派手な学園祭もないし、
サークル活動もあるにはあるが、
有名大学の有名サークルみたいなパリピ感はない。
さらに世の中には「放送大学卒」のすごさを理解しない者も多い。
なので卒業後「大卒」を名乗れるようになるといっても、
「東大卒」みたいな有名大学卒として他者をひざまずかせるような権威性は得られない。
とはいえ、少しでも詳しい者なら、放送大学卒とは微妙な大学をテキトーに出ているよりよほど凄い経歴であることをわかってくれるとは思う。
(内容がガチで難しいし、卒業には半端じゃない自律心と根気がいるので)
つまりは、「大学生活」という、キラキラした、青春の1ページに憧れがある場合、
放送大学ではそれを満たしにくいのではないかと思う。
そういう意味で、
まだ30代前半くらいまでの見た目なら、
普通の大学に行けば若者の友達ができるはずだ。
人生にはいろいろな事情があるものだが、
500万円くらい貯めればまあなんとか4年生大学を卒業できると思う。生活費は別になるが……
なので「大学生活」に憧れがあり、
なおかつ間に合いそうなら、お金を貯めて、
志望校をもう一度目指すことを考えた方が、
のちのち悔いが残りにくいのではないかと正直なところ思う。

現在不登校だったり精神や身体的な病気がある人にはもちろん放送大学はおすすめ


人に会うのが怖いとか、
心身に病気があってあまり外に出られないとか、
体調に波があって予定が立てづらいという場合に、 
放送大学に入学すれば学びを深められるだけでなく、
128単位で大卒の資格まで得られるのでおすすめだ。
しかも普通の大学より学費も安い。
私もコロナ禍の自粛期間中にまったく外に出られなかった時にはめちゃくちゃお世話になったし、その時は入学してて良かった……と心底思った。
テレビやネットを徘徊するだけでは得られない大学相当の深い知識を、家から一歩も出られなくても得ることができる。
こんなに便利な大学を活用しない手はない。

学歴コンプなら放送大学を検討するより心の状態を良くする方が近道では


運良く私は現役で大学を卒業することができた。
多くの大卒者もそうだと思うが、
私は自分が大卒であることに対してとりたてて優越感を感じたことはない。
でも、大学を出ていない人にとって大学を出ていないということはものすごく気になる場合があるらしいということに、その嫉妬をダイレクトに何度かぶつけられてようやく気付かされた。
まさか人間の価値が大卒か否かで決まるわけはあるまい。
しかしそれは私が大学を出ているからこそ、大学出てるから何?という態度でいられるのだろう。
そうした、
「大卒」を見るやいなや「あの人は大卒のクセに……」とか「大卒は頭はいいかもしれないけど……」と何か一言イヤミを言わずにいられないほどコンプレックスを抱いている知り合いを見ていると、
そんなにしんどいなら放送大学にでも入ったらいいじゃん……と思ってきた。
しかし実際に放送大学に入学して、
ある時「中卒以降は学校に行かず、長年大工をしてきた」という70代の男子学生に出会うことになった。
そのおじいさんは授業の内容にあまり関心が持ててないようで、口を開くと単位のことばかり気にしており、「学び」を楽しめていないようすだった。
なんとなく、ずっと「大卒」に対するコンプレックスがあったのかな?とか想像した。
人間、別に大卒だからといって何か立派なわけじゃない。
ていうか中学を卒業してから50年以上も大工として働いてきたことのほうがよっぽど立派で、
「大卒」であることなんてそのキャリアに比べたらものすごくどうでもいいことのように感じたが、
おじいさんがそうしたいと思ったのだから、外野がとやかく言うことではないだろう。
しかしこうやって「コンプレックスの克服」を目的として放送大学に入学するのは大変だなと感じたのだった。
というのも、放送大学は授業が容赦なく難しい。
高校卒業程度の知識・知能は前提条件として必要になる。
例えば中学の勉強でつまづいたまま、コンプレックスの克服のために放送大学に入学してしまうと、授業を聞いても理解できず、モチベが続かなくなってしまうのではないかと思う。
なので「大卒」の経歴に対してコンプレックスがあり放送大学の入学を検討しているという場合、
最近はYouTubeにも勉強系の動画がたくさんあるので、
そういうのでまずは高校程度の知識を得、
これからさらにもっと専門的な知識を学んでみたいか?を自問した方が、いらぬ回り道をせずにすむのではないかと思う。
自身の内面をよく観察し、
自分は本当に「学ぶこと」を望んでいるのか?
本当はもっと違うことがしたいのではないか?
正直に考えてみてほしい。

人生に行き詰まりを感じていたり、知識や教養に渇望感のある人には間違いなくおすすめ


例えば私のように、40歳になっていきなり生まれ育った宗教のマインドコントロールが解け、人生の路頭に迷うことになった人などには文句なくおすすめだ。
そんな珍しい状況にはないよ、という人にとっても、
特に人生の中盤にいる人に向いていると思える。
私も映画や観劇などいろいろ趣味があるが、
入学して、正直こんなに面白いことは他にないのではないかと感じるほど面白い。
どの教科からも自分の人生にずっと足りてなかったピースが得られ、毎回バシ!!!とハマりこむような快感があるからだ。
こんなに面白い娯楽があるのに、なんでみんな放送大学入らないの?
いや、放送大学、本当にガチでマジで面白いので今後バズると思うのだ。
だからその時にそなえて、後に続く人への道しるべになればと思ってこうしてnoteを書いてもいる。

「学校」での「勉強」といえば子供〜若者のイメージがあるものだが、
中田敦彦も言っている通り、大人だからこそ勉強は楽しい。
子供の頃は知るよしもなかったが、タバコやお酒と似ていて、実は「学び」とは大人だけにゆるされた甘美な嗜好だったのだ。
人間生きていれば知らぬ間に何かしらの知識が増えていくものだ。
そうした無意識に得た情報に対して、
あ!あれってこういうことだったのか!
という気付きが連続で起きる時間を想像してみてほしい。
学ぶの気持ち良すぎだろ!というものだ。

最近Xで流行ったこのミームを見てほしい。

あなたも放送大学に入学すればいずれ「そこで繋がんねや」と言う時が来る。

別角度からも見てみよう。
放送大学の面接授業ではその道の「大学教授」から直接に話をきくことができる。
つまりそうした業界の精鋭から影響を受けることができるのだ。
ところでやっぱり人間には「オーラ」があると思う。
オーラと言うと怪しいかもしれないが、
少なくとも人間には「雰囲気」や「話し方」、「顔つき」といった要素がある。
「医療に関わっている人」は「医療人らしい顔つき」「話し方」をするものだし、
「ゲームのプログラミング」の教授の佇まいは「皇學館大学の神道学」の先生とはやはり違っている。
そういう自分のいる業界とはまったく違う業界の人、それも大学教授レベルに尖った人間に会うと、
こんな世界があったのか!
という驚きが体感として得られる。
そうしてなんというか授業が終わると、自分の中で魂の流れが少しだけ変わっているのを感じるのだ。
そこからわずかな期間、その業界の人のような呼吸とテンション、価値観で、世の中を見ることができるようになる気がする。
これほど刺激的なことって他にあるだろうか。

就活に有利な大学かは疑問


私はこれまで新興宗教の教えを忠実に守って生きてきたので、大卒だが就活を経験していない。(質素倹約が神の道という教えだ)
今に至るまでパートで生計を立ててきたので、
就職・転職にあまり詳しくないことにはご留意いただきたい。
その上で放送大学卒業後の就職について語るわけだが、まず大卒でないことをコンプレックスにしている人の多くは、希望の就職先の採用条件に大卒以上とあることが不利に感じている人は多いのではないだろうか。
しかし放送大学を出たからといって、
普通の大学の大学生と同じ「新卒」扱いで就活のスタートラインに立てるか?というと、それは微妙なのではないかと思う。
普通の大学を出ていても、「新卒」「20代」みたいな条件を揃えなければ大企業の1年生をやらせてはもらえないはずだ。
また資格の取得に関しても心理系の資格が取れるようだが、その方面に明るくないので割愛させてください。
また、資格というと去年私も日商簿記3級の資格を取ったが、
それも放送大学の簿記関係の授業を履修して勉強したのではなく、YouTubeと本屋で売ってる参考書だけでなんとか合格できた。
また放送大学には大学によくあるような「就職課」みたいなものもなく、就職先の斡旋もない。
そのため就職を見据えた資格の取得を目的にするなら、放送大学より専門学校の方が近道なのではないかと思う。

もっかい結論


なので、学生時代に高校から大学の範囲を勉強していて、
「オモシロ!」
と一度でも感じたことがある人にとっては恐らく楽しめる学校だと思う。

一方で物事を深く考えることにまどろっこしさを感じる、というような人にとっては、無理に入学する必要はないように思う。
そのような人が青春のやり残しを感じている場合、
大学教育や学問を避けたアプローチの方が、古い後悔を成仏させてあげやすいのではないだろうか。

また、なんとなく自分の視野が狭い気がする……
みたいな自覚のある人にとってもおすすめだ。
たとえば面接授業を履修すると、その道の専門家に会って話を直接聞けるので、
専門領域の空気感に触れる機会にもなり、
「自分はこの領域に意外と向いてるかもな」
という気付きを得られる可能性もある。

例えば私は今期「光合成微生物」に関する授業を取ったが、やはり自分はこの分野に関心がある、と再認識できた。
一方で「ゲーム情報学」を履修したが、学生時代に数学の確率の分野がかなり苦手だったことも思い出し、この分野はへ〜おもしろ〜いくらいにとどめておいた方がよさそうだ……とか思った。

話は戻るが、この放送大学。
明日使えないムダ知識を増やしまくることに快感を覚える人にとっては自己実現の足がかりになるだろうが、
一方で、明日使えないムダ知識は無駄でしかないだろ、という現実的な人にとってはただつまらない学校になると思う。

冒頭で「虎穴に入らずんば虎子を得ず」と書いた。
放送大学のキャンパスはどこも遠かったし、
2日間みっちり授業を受けるのは体力的にもキツい。
お金も6000円かかるし。
まわりは老人ばっかりでどんな格好しても目立っているような、居心地の悪い思いもした。
しかしそういう不利益を吹っ飛ばして余りあるほど面白かった。
放送大学、マジで面白いからみんな入って面接授業を受けよう!

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