コンサル会社の正月明けを教えてあげようか?
昨年、大手優良企業から見事にコンサル会社へ転職したヒルズ氏。しかし、そこで待ち受けていたのは社長を筆頭とする奇人狂人たちだったーー。180度違う環境に戸惑いながら、今日も六本木砂漠を生き抜くヒルズ氏の日常を見逃すな!(前回)
さてと。
諸君、もう1月も下旬だね。
充実した2019年をお過ごしかな?
少し遅くはなったが心が落ち着いてきた今日この頃、我が社の正月明けの様子をご紹介しようと思う。安心してくれ、今回は初の読み切りだ!
◆新年の朝は早い
「おはようございます...」
テンション氷点下のコンサルタント達が出社してくる。
いや、人のことは言えない。正月中は「さあ一年の始まりだ、ビシッと決めるぞ!」と気合十分だった私もなかなかにテンションが低い。
なぜか?
それは年明けとともに届いた一通のメール。
社長からだ。
「新年は1時間早く出社するように」
メールを見たときは随分と困惑した。そもそも出社時間などあってないような会社だ。一応、出社時間は9時になっていたか。ということは8時出社? しかし何のために?
困惑したまま自席でコーヒーを飲む。
ちなみに社長は、まだ出社していない。
ちょっとキレそうになっていた時だ。
「おはよう」
ようやく社長が出社、片手を上げ挨拶をしたのち社長室に消える。続いて運転手の佐藤さんが登場だ。
(ねぇ、佐藤さん?)
(なに遅刻してんの?)
冷たい視線を投げかける社員達。
(いや、僕のせいじゃないよ!)
口をパクパクさせる正直者の佐藤氏。エア会話で真実を伝え、着席。どうやら運転のせいではなく社長の寝坊のようだ。
もう一度言う、私はキレそうだぞ。
「さぁ、みんな揃ってるかな?おはよう!」
社長の話が始まった。
◆気づき
結論を言おう。
新年の挨拶を全社員の前でしたいーー。これが、1時間前倒しで出社させた理由だ。ちょっと意味がわからない。
さて、、、大変気分は悪いのだが、、、
肝心の挨拶の中身をご紹介するか、、、
「私がSタンフォードにいたころの話だ」
「単位を早々と取ったため、興味の赴くままに授業を受けることにした。それが人生の役にたつかなど考えもせず」
独特なジェスチャーを交えながら話が進む。
ふむ、自分語りか。
「当時はただ夢中で自分の好きなことに熱中した」
拳を握りしめる社長。
おや、どこかで聞いたことがあるぞ?
メモを取る手が止まる。
「最初はただの点にすぎなかった経験だ」
これは、あれだな、、、
「それがいつしか、今の会社設立につながり」
あの、伝説のスピーチ、、、
「点が線になったのだ!」
スティーブ・ジョブズ氏の!
パクリだな!?
「ぐっ、、げほっ!!!」
気が付いた瞬間、口元を抑える。
知っている、私は知っているぞ!!
ここは我慢の時だ、笑ってはいけないゲームが新年早々開始するとは、さすが油断も隙もない我が社!!
しかしパクリと分かっては、今後の展開は完璧に読めてしまう。次は仕事での挫折、奥様と出会い、そして死を意識して日々を生きろ、そうだろ?
暇だな、、、
この時間、どう潰したらいいのやら、、、戸惑いながら横を見る。
◆猛者たち
角刈り氏はさすがだな。神妙な顔で頷いている。新人Boy氏は、おや? 感動の表情を浮かべ聞き入っているではないか! まさかこの伝説のスピーチを知らないのか? お嬢氏は、、、来ていない。いつも出社遅めのお嬢氏だが、かけてもいい、今日はわざとだな?
チラリと隣のチームを見る。
戦略策定支援専門のチームだ。
な、なんということだ!
みな必死でノートをとっているではないか!?
いったい何を書き留めているのだ、英語か日本語かの違いはあるが、まんまスティーブ・ジョ、、、
じゃない!
なにぃ!
ノートをとるふりをして、プロジェクト用資料の下書き(*)をしているだと!?このストレスフルな環境で思考力が落ちないとは、、、
これが、真の思考体力ってやつなのか?
職人技に驚愕する。まだまだ社内には超人がいそうだな。新年は他チームとの交流を深めるとするか。密かに決意する。
◆爆乳総務の仕事始め
プレゼンは1時間に渡った。
あまりの精神的疲労にコンビニに向かい果汁クミを買う。私の大好物だ。はっきり言ってこんなにグミが美味い国は他にあるまい、日本に生まれてよかった、しみじみと感じる瞬間だ。ってそれはどうでもいいんだが、、、やたらコンビニに弊社社員が多い。みな随分と疲れた様子、仕事始めとしては最悪だ。
伸びをしながらオフィスに戻る。
おや、、、
くたびれたオフィスに一人異彩を放つものが、、、
爆乳総務か!
遠目にもわかるそのいでたち、、、
じゃない、恐ろしい速さのタイピング! しかもヘッドホンを着用、鬼の形相を浮かべているではないか!
一体何をそんなに打っているのか、、、
「お疲れ様です」
タイピングを続ける爆乳総務に、コーヒーを差し出す角刈り氏。一体どうしたことか。完全セルフサービスの我が社で、わざわざマネージャーがコーヒーを出すとは。
不審な目を向ける私に気が付いた角刈り氏が、手招きをする。なんだ? 絶対にロクなことじゃないなこの雰囲気、私も嗅覚がよくなってきた、臭うぞ!
警戒しながら爆乳総務の席まで移動する。
角刈り氏が指さす画面を見る。
目を細め、タイピングしている文章を読む。
「えー、私が渡米したころのSタンフォードには、すでにITの、えー、、」
な、、、!?
これ、
社長プレゼンの
聞き取りしてるのか!?!?
「ぐっ、ふ、ぐ、、、!?!?」
「ぐっ、ぐふ、、、、ふふふ」
私の動揺につられ、なぜか今更動揺する角刈り氏。
「今日中に全部打ってくれって、Webサイトにアップしたいらしい」
「そ、そうですか、、、ぐっ、、ふっ」
あまりのくだらなさに、にやける顔を必死でごまかす角刈り氏と私ことヒルズ氏。爆速で聞き取りを続ける爆乳・プロフェッショナル・総務。
今年もロクなことが起こりそうにないなーー。
笑いを堪えながら、2019年のヒルズ生活に思いを馳せる。ロクなことはないだろうが、きっと経験したことのない未来でもあるんだろう。ブラック企業だなと感じながらも、予想を上回る環境に中毒気味でもある。
せいぜい楽しむか、この与えられた環境をーー。
自席に戻る。
果汁クミを口に放り込み、ようやく業務を開始した。
- 新年のご挨拶編 完 -
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(*) いきなりスライド(パワポなど)を作り始めるやつはバカ、という風潮があるコンサル会社。伝えるべきメッセージとレイアウトをノートに試し書きすることが多い。そしてその紙を渡すと部下または資料作成専門チームが綺麗に作成してくれる。結局、気に入らなくて作り直したりするんだがな。
Twitter: @soremajide
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