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本を選ぶときは

 新しい本との出合いを求めて本屋を訪れるときは、無性にわくわくします。何か目的が在って訪ねるのとは違う、宝探しのような気持ちです。

 私は新聞投稿の謝礼やトイレットペーパーのポイントを集めて交換した図書カードがある程度溜まったら、本屋へ行って新品の本を買っても良いことにしています。極上の時間の始まりです。

 電車に揺られ、大きな本屋へ足を運び、棚一面の本を目の前にすると、胸の高鳴りが外へも聞こえてしまうように思います。顔は無暗に笑っています。さて今日はどんな本に巡り合えるかと、期待をしながら一歩踏み出します。何しろ大きな本屋ですから、料理やデザイン、植物とあらゆる分野の専門書が幅広く揃っています。そういう棚を見上げるようにしながら探索することも醍醐味です。その時興味のある分野の棚へ赴き、背表紙を眺めながら、或いは書店おすすめのものの表紙を眺めながら、タイトルや装丁なども観察します。工夫を凝らしたデザインのものに出合うと、思わずうっとりしてしまいます。中には買いたいと思うものも出てくるのですが、予算は限られているので、専門書などは一度の出合いだけでは買わないことにしています。一期一会ということもありますが、本当に必要な本とは、再会できるものだと思うのです。

 本に圧倒されながら、私は目的の場所へ移動します。やっぱり小説が好きなのです。新刊でも文庫でも、その時読みたいと思ったものを買います。では、どういう本を読みたいと思うか。勿論贔屓の作家さんはいます。夏目漱石先生は師ですから贔屓などと言うには失礼です。全く別枠としまして、最近は太宰治先生も面白く読んでいます。葉室麟先生の時代小説も幾ら読んだか分かりません。朝井まかて先生の作品も新刊を心待ちにするほど大好きです。ですが作家に拘らず新しい読み物に出合いたい時は、棚を端から歩いてみるしかありません。

 明確なものはありませんが、何となく、この列にしようなどと思って、背表紙を追い始めます。少し気になるタイトルを見つけると、手に取ってみます。今は矢鱈と触れるわけにはいきませんから、慎重に、どうしても気になった場合にだけ手を伸ばします。そうして表紙と、装丁とを見て、好きかなと思ったら裏表紙のあらすじを見ます。面白そうだと思ったら、ここが一番重要です。本を慎重に開いてみて、一行目を読んでみます。

 私が本を選ぶとき最も大切にしている所は、物語の一行目です。ここを読めば自分が好きな作品かどうか分かります。もしも一行で判然としない場合は、あと二行くらい読んでみます。そこで何か惹かれるものを感じたときは、この物語を最後まで読んでみたいと思うのです。今まで本を買うときに、知っている作家さんだからとか、映画化されるからという興味で選んでみて、「うーん、自分の好みとは少し違ったな」と思うことがありました。そういう時の自分は、一行目を読んでいなかったことに気が付いたのです。私にとって一行目を読んでみることはその本を買うか買わないかの重要な判断基準になっていたのです。

 勿論絶対とは言い切れません。今後肩透かしを食らうようなこともあるかも知れません。それも経験かと思います。何より新しい作品にまた一つ出合えたという体験は残ります。吸収するものが全くない本は存在しないと思うのです。

 それから、あくまでも最初の数行を読むのであって、間違ってもパラパラとページを捲ってはいけません。もしも物語のオチが目に入ってしまうと大変ですし、買い上げていない以上、それはお店のものですから、慎重に、丁寧に取り扱う必要があります。

 そうやって出合った物語を無事家に持ち帰り、読み始める時の高揚感は他ではちょっと体験できない喜びです。そしてもしもその本が期待よりももっともっと面白かった場合、とびきり幸せな気分になります。自分の本棚にお気に入りがまた一冊増える瞬間です。

 皆様はどんな風に本を選びますか。一人一人の人生に極上の一冊との出合いが生まれるといいですね。


                                    いち                

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