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【短編】失敗占い

不条理なお話。
軽く読めます。


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ある所に占い師がいた。
その占い師は、少し先の未来までに失敗することが分かるという。
毎日行列ができる人気占い師だった。

ある日、占い師の元に男がやってきた。
占い師が水晶を覗くと、車で事故を起こして死んでしまう彼が写った。
これは大変だと他の未来を見てみると今度は強盗がやって来て刺されて死んだ。

バナナの皮で転んで死ぬ。
恋人を怒らせ振られて死ぬ。
どんな未来を見ても、今日中に男は必ず死んだ。
占い師は男にそのことを伝え、車に乗らないこと、人が来てもドアを開けないこと、
バナナを食べないこと、恋人を怒らせないことを伝えた。
男は怖がりだったのですぐに部屋に引きこもった。

男は占い師の言いつけを守った。
天気が良くてもドライブに出かけなかったしチャイムが鳴っても出なかった。
腹が減ってもバナナも食べなかったし恋人からのメッセージには慎重に返した。
怖がりの男は次第に全てのものを疑いはじめ、早く今日が終われと願った。


夜。
急にチャイムが鳴って男は飛び上がった。
恐る恐るドアスコープを覗くと彼女が立っている…
男は混乱した。
恋人を部屋に引き入れたらケンカになってしまうかもしれない
いやもしかしたら彼女の振りをした強盗かもしれない
彼女が強盗なのかもしれない
もしかしたら彼女は僕を殺しに来たのかもしれない

彼女からメッセージが送られてきた。
「部屋にいるんでしょ? なんで開けてくれないの?」

ドアを叩く音が聞こえたが男は決してドアを開けなかった。
すると彼女からメッセージが届いた。
「浮気してるんでしょ。前から怪しかったよね、さよなら」

しまった、これはケンカだ。
そう思って慌てて電話したが繋がらない。
何通もメッセージを送ったが既読にならなかった。

なんてことだ、失敗してしまった。

男にとって失敗は死を意味していた。
もう終わりだ。
男はベランダから飛び降りて自殺してしまった。




占い師の部屋。
水晶を覗く占い師の姿があった。
落下防止ネットの上で、間抜けにのびている男が写っている。

「そこを失敗するとは…私もまだまだだな」
占い師がはあ、と息をついた。
宙を舞ったため息には安堵と落胆の両方が混じっていた。
男の最後の失敗を当てられなかった自分の失敗も、占い師は当てることが出来なかったのだ。






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