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【感想・あらすじ】食堂かたつむり(小川糸)

田舎から上京し、トルコ料理店で働いている倫子。

向かいにあるインド料理店のインド人と付き合っていたのだが、二人で住むアパートに帰宅すると家財がいっさいがっさいなくなっていた。

いつか二人でお店を開こうと、コツコツためていた数百万円の開店資金とともに…。

一瞬で状況を理解した倫子は、かろうじて残されていた祖母の形見である「ぬか床」を抱え帰省することに。

ショックで声を失った倫子は、こっそりと母のへそくりを盗んで退散しようとするが、

大嫌いな母に見つかり、実家に住むこととなる。

何とかして、生計を立てるため実家の物置小屋を改造して食堂を営むことに。

その名も「食堂かたつむり」

食材は地産地消、一日一組のみ予約をうける。

その料理の味わいや、恋が叶うという噂が瞬く間に広まり、

一躍、有名店となる。

経営が軌道に乗り人気を得た矢先、

母が癌を患っており余命数か月と知らされる。

また、そんな中で母が初恋の人と再会し結婚することに。

母は自分の死期を悟り、大事に飼育していたブタ「エルメス」を食べる決意をする。


母との確執に翻弄されながらも、人として料理人として成長していく物語。



料理の描写が美しい

倫子は様々な料理店でアルバイトを経験してきた。

そんな倫子の一番の師匠は、祖母だった。

祖母の食材や料理への思いを引き継ぎ、愛をこめて料理をする。

その様子は、とても神々しい。

何より、とても一生懸命に食べる人のことを考えて作っている。

お客さんの気持ちや思いに合わせて、色合いや味わいを整えていく。

その描写がとても美しく、食材の匂いや温かみが伝わってくる。


小川糸さんの優しい文章が沁みる

小川糸さんの作品に初めて触れたのは、エッセイだった。

その価値観や優しい文章が大好き。

本作品も小川さんの素敵な文章が活き活きとつづられている。

当たり前なのだけど、読んでいると「あぁ、小川さんらしいな」と感じることがしばしばあった。

ほっこり、優しい気持ちになれる。


食材への感謝の気持ちを思い出す

作中では「エルメス」というブタが登場する。

成長が悪く、処分されそうなところを母が譲り受けたそう。

それはそれは大事に育てられてきた。

しかし、母が癌であり死期を悟ったのか、自分の結婚式でエルメスを食べる決意をする。

「自分が死んでしまうとエルメスも寂しい思いをするだろうから…」


倫子は母のために、エルメスの解体作業を行うこととなる。

毎日世話をしてきた、家族のような存在を切り刻む。

そのことがどんなに苦しいことか、想像しなくてもわかる。


倫子は、自分の手でエルメスの頸動脈を切る。

エルメスに感謝しながら、内臓を取り出していく。

「目玉と蹄以外は何ひとつ、無駄にはしない」

そう誓い、エルメスの体をすべて使って母の結婚披露宴の料理を作ることとなる。


普段はお腹が空いたからご飯を食べる、

栄養のために食事をとる、

のように自分のことを考えがちかもしれない。

本書では、自分以外にも、食材となった動植物への感謝の気持ちも

大きなテーマとして扱っている。

当たり前のように食材を口にしている中で、

口にできること、

自分の血肉となりエネルギーになってくれること、

など様々な感謝の気持ちを思い出させてくれた。

フードロスが問題になっている近年、

ぜびたくさんの人に読んでほしいと思った。

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