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短編小説

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#毎週note

【短編小説】三者面談

【短編小説】三者面談

本当に、色んな親がいる。

三者面談をするたびに由貴はそう思う。

教師になって5年経つけど、人間の多様な姿をこんなに見ることができるタイミングってなかなか無いんじゃないかとしみじみ感じてしまう。
 
「このさきに崖があるのが分かっているのに、あなたは、それを止めないんですか」

由貴の目の前で、母親の姿をした生き物がまくしたてる。目は釣り上がっている。

鼻をふくらまして喋る母親の隣で、何を考え

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【短編小説】なぞる、おわる

【短編小説】なぞる、おわる

指をたどって這わせた時の、あの背中の心地よさが嫌いだった。

もう誰にも触られたくない。

誰かと別れた瞬間はそう思うのに、またどうせ、半年も経てば出会いが欲しくなる自分が嫌だった。

連絡先を消すこともできず、SNSの変化にも気持ちが追いつかず、家の中でただポテトチップスを食べる自分を俯瞰で気持ち悪がって、そんなふうに、また日曜が終わる。

おわり

【短編小説】夏に吐く

【短編小説】夏に吐く

空を見上げると入道雲がそびえたっていた。

雲の向こう側で太陽が輝いている。

入道雲は後光をたずさえて,僕の心を離さない。

ドラッグストアのだだっ広い駐車場で立ち尽くす。

今が朝なのか夕方なのか分からなくなる。

夏が大嫌いだけど,こんな景色が見られるのなら少しぐらいは許してあげてもいいのかもしれないという思いが掠める。

さっき家にいた時に吐いた気配をまだ口の中に残したまま,目を細めた。

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