- 運営しているクリエイター
#実存主義
【短編小説】『私の中の獣』ノーベル賞作家、大江健三郎さんを偲んで 《Deep & Darkなお話》(5211字)
篠田洋介は、出会った43年前と同じ聖人のように高貴で穏やかな笑顔を浮かべて私の足元で仰向けに倒れていた。そのときも、今も変わらず、その笑顔は私の中の獣を刺激した。食道の壁を野火のように広がり腹の底から駆け上がろうとする苦い刺激性の液体を私は必死で飲み下した。私は、凍てつく失望と煉獄の炎のような自己嫌悪に押し潰されそうになった。自分はなんと弱いのか。これほどの衝撃を受けずに、人ひとり殺すことすらで
もっとみる