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「オンボロ屋敷の桃色ヤモリくん」第10話

「陶芸家のゴダイさん(1)」

 飛び立ったトンボが、コスモスの花を揺らすと、青空には秋の白い雲が浮かんでいた。

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 腰ほどの高さある棚の上には、ずらりと焼きあがった陶芸作品が並んでいて、その前には、何か難しい顔をした男が腕組をして立っていた。

男は、中肉中背でやや細身に見える体は、作務衣に包まれていて、頭に被った波千鳥模様の手ぬぐいの下の目は少しだけ光っているようにも見えた。

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 男は、並べられた作品を1つ1つ手に取ると、

「これは、だめだな。これもだめだ。」

と言いながら床のコンクリートに落として壊し始めた。

「ガチャン、ゴチャン、ガチャカン、ガッチャン」と男は次々と並べられた作品を割っていったが・・・。


 あるところで、その音が止まったかと思うと、工房の外まで聞こえるような叫び声が聞こえた。

「キョエーーー、これはいかん。またやってしもうたわー。」と奇声を上げると男は頭を抱えてその場に座り込んでしまった。

しかし男は、直ぐに気お取りなおすと、立ち上がって工房のおもてに駆け出すと、置いてある自転車に飛び乗って走り出すつもりだったのだが・・・。

いっこうに、自転車のペダルが漕げないのでよく見ると自転車にはカギがかかっていたのだった。


 普段カギなどかける事などないのに、何故かカギがかかっている事に慌てた男は自転車をそのまま担いで駆け出したのだったが。

その後ろから、男の家内が自転車のカギを持って追いかけるという不思議な光景だった。

「あなたー自転車を担いでどこいくのよー。カギ、カギー、自転車のカギーー」

後で聞くところによると。

男の家内がスーパーに買い物に行った時に、ご近所さんとの井戸端会議で何処そこの自転車が盗まれたらしいという噂話を聞きつけて来て、いつもはカギなどかける事はないのだが。

その日に限ってカギをかけていたらしいという事が分かったのだった。


 カギを受け取った男は、カギを外して自転車にまたがると

「えらいこっちゃ、えらいこっちゃ、またやっちまったわー」

と、言いながら、秋の、のどかな風景の道を自分が馬になったような気分で全速力でペダルを漕いで、そのまま空に飛びあがるかと思うぐらいの勢いで走っていった。

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「キィーーーーー、ガッシャーン」

男は、自転車を乗り捨てると、慌てて草野兄弟の住むオンボロ屋敷に駆け込んでいったのだった・・・。


 バタンと、大きなドアを開ける音と共に駈け込んで来たのは、陶芸家のゴダイさんだった。

ゴダイさんは、息をハアハアと切らせながら、如何にも申し訳なさそうな顔でこういった。

「す、す、すまん。ハルオにサクラちゃん、またやっちまったよ・・・。」


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連載小説(不定期)
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つづく

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連載小説(不定期)「オンボロ屋敷の桃色ヤモリくん」第10話「陶芸家のゴダイさん(1)」

終り

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コメント 2020-07-15 154257

2020.9.19

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