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映画の感想「プロミシング・ヤング・ウーマン」(2020)

原題:Promising Young Woman
監督:エメラルド・フェネル
主演:キャリー・マリガン

あらすじ
俳優・クリエイターとして幅広く活躍するエメラルド・フェネルが、自身のオリジナル脚本でメガホンをとった長編映画監督デビュー作。

ごく平凡な生活を送っているかに見える女性キャシー。彼女には、周囲の知らないもうひとつの顔があり、夜ごと外出する謎めいた行動の裏には、ある目的があった。明るい未来を約束された若い女性(プロミシング・ヤング・ウーマン)だと誰もが信じていた主人公キャシーが、ある事件によって約束された未来をふいに奪われたことから、復讐を企てる姿を描く。

主人公キャシーを「17歳の肖像」「華麗なるギャツビー」のキャリー・マリガンが演じ、「スキャンダル」「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」や「スーサイド・スクワッド」で知られる女優マーゴット・ロビーが製作を務めている。2021年・第93回アカデミー賞で作品、監督、主演女優など5部門にノミネートされ、脚本賞を受賞した。

映画.comより引用

もう既に様々な人がネット上で、感想や考察を書いているけれど、私もようやく「プロミシング・ヤング・ウーマン」を観ることができました。ようやく、最近の評判作に追いつきました。

この映画は一見、演出やBGMから痛快な復讐劇に見えるけれど、観るのが苦しくなるほど、現代社会のどこかで起こっている事件とその後どうなるかを描いていました。

主人公キャシーは、誰に相談しても何も解決しないと思っている。女性が被害を訴えても取り合ってくれない。プロミシング・ヤング・ウーマン(女性)と男性を天秤にかけた時、優先されるのは、男性の方なのだ。「被害を訴えた女性だって、酔ってたんでしょ?その時、酔っていて、あやふやだった彼女の記憶は信用できない」とか、「合意の上だったんだ」とか、「こういう訴えはよくあること」とか、この映画の中でも、性加害を取り上げた他の作品でも聞いたことがある釈明がされていた。結局、訴えを握りつぶすために、被害者自身を責め立て、揺らがせるやり方はどこも同じらしい。

キャシーの怒りと憎しみ、そして、親友ニーナを助けられなかった罪悪感が彼女の中で滾っている。学生時代、被害を受けた後、ニーナは学校側に届け出たのに、加害者である男子は弁護士を雇い、結局、彼が罰せられることは無かった。学校側も被害を無かったことにしてしまったようだ(学校の関係者はニーナのことを覚えてもいなかった)。そこから、キャシーは、男性(加害者)が裁きを受けることは無い。反対に、女性(被害者)が耐えて生きていくように仕向けられるだけだと知った。

だからこそ、キャシーは、加害者が裁かれないなら、自分が男性たちにわからせてやるしかないと夜な夜な、バーやクラブで泥酔したふりをして、そこで声をかけてくる男性を制裁する。

映画を観ていると、キャシーが空っぽになってしまったことがわかる。男性たちへの制裁以外に、何をすれば「正せる」のかわからない。ニーナの母親にも言われていたけど、やり直せる方法なんてもう無いのに。

でも、あの時、ニーナを救えなかった自分は、せめて何かをしなければいけないとキャシーは思ってしまっている。だから、キャシーは別に、復讐の鬼というわけではない。酔った女性に声をかけて連れていこうとする男性に制裁を下すこと以外に自分にできることが無いから、そうしているだけに見える。キャシーの生き方は、破滅的で空虚だ。自分がどうなってしまっても構わないような。生きる意味を失くしてしまったような。

最後は…、最後は、キャシーは自分を犠牲にする形で、ニーナの敵を討った。キャシーは、キャシーとニーナで2つの部分に分かれたハートのペンダントを持っていた。最後のメールでも、「キャシー&ニーナ」と署名していたので、キャシーにとって、親友ニーナは一心同体だったのかもしれない。ニーナの母親に、もう前に進みなさいと言われても、ニーナの敵を討ちに行くほど、キャシーにとってニーナは重い存在だった。もしかしたら、自分が生きて帰ることはないと想定していたとしても。

映画を観ながらふと思ったのが、主人公キャシーの本名はカサンドラ(キャシーは愛称)。正直、近年のアメリカ人ではあまり見ない名前なので、やけに古風だなと思っていたら、ギリシャ神話に登場するカサンドラになぞらえているのではないかと思った。

カサンドラは、カサンドラ症候群の由来にもなっているけれど、誰にも自分の予言を信じてもらえなくなる呪いをかけられた王女。カサンドラの言葉は誰も信じない。そして、最後に殺害されるのも、神話も映画も同じだ。

この映画を最後まで観終わった時、本当に観てよかったという気持ちになりました。途中、辛い描写が相次いだけれど、最後まで観ると、観てよかったという気持ちになれました。純粋なハッピーエンディングではないけれど、カサンドラ(キャシー)の言葉は、他の人にも届いた。

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