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『風の谷のナウシカ』の、少ないセリフで劇中に描かれない背景を想像させる力がすごすぎた

一度は映画館のスクリーンで観たいと思っていたナウシカが劇場公開されたのでさっそく行ってきた。
結果ずっと泣いてた。ものすごい情報量とクオリティと圧倒的な世界観でほんとにすごかった。
少ない行動や台詞によって一瞬でその背景にある物語が想像できて、その物語で涙が出てきた。
ペジテ関連でめちゃくちゃ泣いたので以下メモとして残します。

「この方はペジテ市の王族の姫君ですな」
風の谷にトルメキアの大型船が突っ込んできてペジテのラステルが亡くなったときにミトじいが言ったセリフ。姫が人質にされるということは、ペジテの惨状が想像される。どんなに心細かっただろう。なのに最後にナウシカへ伝える言葉が「積荷を燃やして」。自らの運命より巨神兵をこの世から消すことを望んでいる。健気すぎる。
後にわかるけどラステルはペジテに残った男たちの考え(巨神兵を利用する)とは違う希望を持っていたんだな。
手錠をかけられていた。抵抗の意思があったからか、自殺防止か、無理やり連れてこられたってことだろうか。ラステル…涙
ひと目見てペジテの姫だと見抜くミトじいも優秀な城おじだとわかる。

「私、自分がこわい。憎しみにかられて何をするかわからない。もう誰も殺したくないのに」
ナウシカのセリフ。トルメキアの人質として連れて行かれる前夜、城の地下深くにある秘密の場所でユパに言った言葉。ナウシカはユパだけには弱音を吐けるんだな。逆に言うと谷の人には気丈に振る舞っている。秘密の場所を「みんなには内緒。怖がるといけないから」って言ってたし。状況を冷静に判断している。
「憎しみにかられて何をするかわからない」って昔観た時は父を殺された時の自分のことを言っていたのかと思っていたけど、トルメキアに人質として連れて行かれた後のことを言ってるんだろうな。父を殺されて、ナウシカにとっては谷のみんなを人質に取られている状態。心の底から憎らしいと思うけど必死に冷静を装っている。すごい精神力だと思う。

「あの船は…ペジテのガンシップです!」
トルメキアの大型船航行中、単独で奇襲をかけられてトルメキア兵が言うセリフ。
ペジテから!単独で来た!ガンシップだよ!?もう泣ける。
皆に言わずに来たのだろうか、それとも反対を振り切ってきたのだろうか…たった一人で…1対多勢、負ける確率の高い中、太陽を背に冷徹に攻撃を仕掛けていく。
この行動の理由は、後にガンシップの操縦者が言う一言でわかる。なぜたった一人で来たのか。涙しかない。
あとガンシップがかっこいいし、ペジテの技術力がいかに高いかがわかる。そして彼の戦闘能力の高さよ。

「みんな、必ず助ける。私を信じて荷を捨てなさい」
ナウシカが、落ちつつある船に乗る人質3人衆に言うセリフ。絶望的な状況の中パニックを鎮める、カリスマ爆発のナウシカ。
「必ず助ける」ってすごく力強い。横で観ているクシャナも多分感心しただろうな。軍を率いるリーダーとして。

「ラステルは僕の双子の妹なんだ。側にいてやりたかった」
腐海の底でナウシカに助けられたガンシップの操縦者アスベルのセリフ。
双子の!!!!妹って!!!!!!…涙涙涙
ただの妹ではない、双子の、妹。生まれたときから一緒に生きてきた自分の分身。ラステルが攫われて、一人ガンシップに乗ってきたアスベル。(思い出すだけで泣けてくる)大切な妹を目の前で連れ去られ、その船が墜落したと知って単独でトルメキアを追ってきたんだ。たった一人で。
どんな心境だっただろう。なのにナウシカの前では気丈に振る舞っていて…ナウシカだって数日前に父を殺されたばかり。でもふたりとも泣き言も言わず、さっぱりした態度が本当にすごい。
この世界では、”殺す、殺される、死ぬ、生き延びる”ということがとても身近なことなんだ。ナウシカだってアスベルだって何人も人を殺している。
死ぬか、生きるかの世界。それでも、生きていてほしかったよね。涙
ラステルは多分素直にトルメキアについていったんだろうな。ナウシカのように。ペジテのために。アスベルはそれを止められず、止める力もなく、どんなに悔しかっただろう。

「私達はトルメキア兵にほとんど殺されてしまった」
(ちょっとうろ覚え)ペジテ市の壊滅を見て、アスベルの仲間と合流した際、仲間の一人がナウシカに言うセリフ。
生き残ったペジテの男たちは風の谷のトルメキア兵を谷ごと蟲に襲わせ、全滅させようとしている。
「もう他に道はないんだ」
本当に、追い詰められてこれしかないんだと信じている。それが唯一の希望で、ペジテの男たちはそれしか見えていない。
でもそう考えるのも仕方ないよねと思わされる。この人達にとってはそれが正義で、止めても無駄だということがわかる。

「ナウシカ!谷のみんなに知らせろ!」

ナウシカは風の谷へ蟲の襲撃があることを知らせようとする。それを止める男たちへアスベルが言ったセリフ。
私は宮崎駿監督が描く男性キャラの中でアスベルが一番好きなんですが、このセリフと行動いいですよね。
アスベルもペジテの王子で、街に起きたこと、ペジテの民に起きたこと、妹が無残にも殺されたことで本当につらい筈で、誰よりもトルメキア軍を憎んでいるはず。でも彼はナウシカと行動を共にして、腐海の秘密を知ってしまった。世界は一筋縄ではいかない。予想外の真実があることを知ってしまった。このときナウシカは「腐海の生まれた訳」と、「蟲が世界を守ってる」という事実からアスベルに仲間を説得してほしいと懇願する。アスベルは仲間に銃を向けてまで、ナウシカを行かせようとする。
だけどこの時アスベルがナウシカを行かせようとした訳は、ナウシカの言う理由じゃなくて、もうこれ以上悲劇を生みたくないということだったんじゃないかな。ラステルが殺されて、街が無残にも破壊されて、ナウシカに同じ想いをしてほしくなかったから、行かせたかったのかなと思う。
間に合わないかもしれない、でもナウシカにできる限りのことをしてほしいと願った。だって谷の人々はまだ生きているから。
アスベルのこの判断、かっこいいですよね。

「気をつけて。さっきまで暴れていたから」
暴れてたんだ…ペジテの船に監禁されたナウシカ。この一言だけでナウシカの状態と心情を表してるのすごい。静かになったってことはもうどうしようもないと諦め、絶望してるのかな。ナウシカ…涙

「ラステルの母です」
お母様登場。監禁されたナウシカを助けに来るラステルとアスベルの母のセリフ。自分の娘を看取ったナウシカを助けに来る母…涙 
「本当にごめんなさい。私達のしたことは全て間違いです」
間違っているけど止められなかった。もう動き出してしまった。でも、船の中から、ナウシカと仲間のやり取りを聞いていた。仲間に内緒でナウシカを助けに来る母と身代わりの少女。涙しかない。

「すまない、遅くなっちまって」
はい、かっこいい。アスベルがナウシカを当たり前に助けるつもりでいたことがわかるセリフ。母に事情を全て話したアスベル。ナウシカの身代わりだった子は年代も近いしラステルとも友達だったのかな。泣ける。

「ナウシカ!行ってくれ!僕らのために行ってくれ!!」
ナウシカを逃がす時、トルメキアに襲われながら言うアスベルのセリフ。
すごい泣ける。
僕らのために。ペジテのために。
風の谷を壊滅させたら、ペジテの人々が風の谷を皆殺しにしたことになってしまう。トルメキアがペジテにしたことと同じことを。妹を看取り、命の恩人の故郷を滅ぼしてしまう。
力強いセリフ。

「嫌だ!!ラステルさん…」
王蟲の子を攫い、谷に運ぶ途中のペジテの若者のセリフ。ナウシカがメーヴェで近づいてきた時、仲間に撃てと言われ、ナウシカにラステルを重ね見る若者。この若者はラステルを慕っていたんだ。ナウシカが着ているのはラステルの服だったんだ…お母様…
「撃て!」からの「嫌だ!!」「ラステルさん…」の言い方がほんとに泣けた。この一言で平和だった頃のペジテがどんな様子だったかすごく想像できるし、死んだ筈のラステルを見てしまうこの若者の傷の深さが本当によくわかる。優しい人なんだなと思う。このあとナウシカが自分を王蟲の子と一緒に王蟲の群れまで運べといった時に、「でも君も死ぬぞ」とナウシカの心配をしてくれる。この若者に幸あれ。

(追記)
「うだつのあがらねぇ平民出にやっと巡ってきた幸運か、はたまた破滅の罠か」
クシャナが乗った船が落ちたと聞かされた時のクロトワのセリフ。平民出だったんだ。このひとことからクロトワの苦労と半生が想像される。
クシャナの巨神兵に関するセリフ、「お前はあれを本国のバカどものおもちゃにしろというのか」からわかるように本国の上層部は権力争いや自分の事しか考えていないような連中だとわかる。だからこそクシャナは辺境に飛ばされたんだろうな。待って彼女の半生も泣けるな。トルメキアの姫なのに辺境で軍を率い、過去には蟲によって腕を失っている。クシャナ殿下…
その腐敗した政権のなか、平民出身として成り上がってきたクロトワ。クシャナが彼を「狸め」って言っていたけど、クロトワはクシャナのお目付け役としてついてきたのだろうか。本国の"バカ共"に派遣されたのかな。それをクシャナも分かっている。うまく立ち回り、どうすれば上に行けるか周到に考える組織では優秀な男、クロトワ。
それともクロトワはクシャナに抜擢されたのかな。平民出身とか関係なく、いやそれを含めてもクシャナは彼を評価していたのだろうか。
クロトワは、後に王蟲の大群に襲われた時、逃げる兵士に「逃げるな!」とひとり踏みとどまっていた。簡単にできることじゃない。
クロトワとクシャナの関係いいですよね。

他にも色々感動したけれども今回印象深かったセリフを描いてみました。
あと一貫してすごかったのが、ナウシカ。ものすごいヒロインですよね。
凄まじい判断力と圧倒的カリスマで戦況を切り開いていく。
ちょっとすごすぎじゃない…?とも思ったけどずっと一貫しているのは谷のみんなを守りたいということ。それが原動力になっているからこそ逆境に立ち向かっていく力が発揮されているんだと気づきました。本当にすごい映画だった。
30年以上前の作品なのにいつ観ても新しいし、作られた時より今に近い映画になってしまったのではと思う。
とにかくすごかったです。

漫画版も久しぶりに読もう…

あと、余談だけど宮崎駿監督の描く作品ってジェンダーギャップが感じられないのがとてもすごいと思う。これも何十年も世界中で多くの人に観られている理由だと感じた。
昔の作品って、(ひどいときは近年公開の作品も)今見るとふと嫌な気持ちになったり、違和感を感じる描写があって、現実に引き戻され、まあ昔だからな…と自分を納得させることが多々あるけど、宮崎駿監督の作品にはそういった要素があまりないのがすごいと思う。
作品って作り手の考えや常識が無意識に現れて、見る人に確実に伝わってしまうのがこわい所で同時に面白い所でもあるんだな。

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