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臨床実習が始まったので医学部やめることにしました

4年間の座学を終えてCBTやOSCEという試験を無事にクリアし、いざ臨床実習へ。実際に医療の現場に出て、医師になるという自覚が強くなっていくこの時期に、筆者は医学部の道から離れることを決めました。
今回は、その経緯と理由をお話していきます。

注)本文中の「医学部」は「医学部医学科」を示しています。

うつ病を抱えながら臨床実習へ

うつ病の診断を受けてから、現在でおよそ1年半になります。発症のきっかけは恋愛のストレスだったものの、大学生活にも支障をきたすようになり、半年間の休学を挟んで今年の4月に復学しました。

大学の講義に出席することは、とても苦痛でした。敏感になっているせいか、周囲の光や音に過剰に反応しますし、他人と過ごすことがストレスに感じます。教室の中には100人を超える大人数が閉じ込められ、暗い室内で眩しいスライドが煌々と映し出されます。マイクを通して拡声される先生の声や、休憩時間の教室中のざわめきが耳障りでした。

なんとか必要なコマ数だけ講義に出席し、試験にも合格しました。
そして臨床実習前の2つの試験、知識を問うCBTと、技量や人間性をみるOSCEにも合格し、晴れて「Student Doctor」として認められたのです。これで正式に臨床実習を始めることができます。

試験が終わって実習が始まるまでの期間は、家事をこなして趣味を楽しむくらい元気に生活を送っていました。実習も問題なく参加できるかもしれないなぁ、と思っていたほどです。

いざ、実習に行ってみると

半日で調子が急降下しました。

大変だったのは、勉強や課題ではありません。しかし、何がつらいのか自分でもよくわかりません。

学校で先生の話を座って聞いていると、徐々に体に力が入らなくなっていって、俯いて泣きそうになってくるのです。その空間にいることが耐えられず、逃げ出したい気持ちになります。それなのに、実習に参加しなければという考えが頭から離れず、そのまま耐え続けてしまいます。

そして家に帰ると、もうぐったり倒れ込んでしまいます。起き上がることもできなくて、初日の午後の実習は休んでしまいました。

それ以降、学校には行くものの長くて半日でギブアップ。廊下での人の話し声にすらビクビクし、疲れ果てて帰路につく日が続きました。

調子を崩す理由を考える

さて、どうして調子が悪くなってしまうのでしょうか。
実習で調子を悪くした理由を考えてみると、実は座学のときと同じ状況がダメだったのかもしれません。大まかに理由を2点挙げます。

人の多い空間

教室や病院、たくさんの人がいます。
普通なら、不要な情報はできるだけ取り込まないように、脳がいい感じに処理してくれています。多少騒がしくても気にしなくてすみます。
しかし、うつ病になると脳が疲れやすくなっています。周囲に多くの人がいて、その気配を感じると、処理しきれなくなってしまいます。元気な時には全く気にならない喧騒がストレスになり、どんどん溜まっていきます。そうして耐えられなくなるのです。

じっとしていなければならない状況だと、さらに調子が悪化します。逃げられないという気持ちが強くなるせいでしょうか。大学の授業が苦痛だったことを思い出します。

もともと人嫌いで、交友関係を狭くして生きてきました。人込みも苦手です。しかし、これまで出席できていた授業に参加できなくなった、というのは明らかに異常です。事実、大学2年生までは毎日通学していたわけですから。(3年次はコロナ禍のため、ほとんどの講義がオンラインでした。)

医学生の「真面目さ」

医学生はとても頭がよく、大学の授業や実習がたいそう忙しい。
そうお考えのかたも多いと思います。

これは間違ってはいませんが、大きな誤解があります。

まず、授業や実習はほとんどが17時には終わります。当然ながら土日は休みですから、アルバイトをする学生もいます。
そして自主学習をする学生は非常に珍しく、多くは試験の前の詰め込みで単位を取っていきます。不合格になっても、再試験のチャンスがありますからあまり心配いりません。

そしてほとんどの学生は、「こなす」ことを目標にしています。
試験に受かればいい。レポートを提出すればいい。楽な診療科はどこか。優しい先生は誰か。何を勉強しておけば怒られないか。etc…
ロールプレイやスライド発表の場では、事前に用意した原稿を淡々と読みあげる人が続出します。
ところが一転、試験勉強にはとても必死に打ち込みます。試験の何日も前から「勉強が大変だ」と言い、珍しい病気をいくつも覚えてくるのです。

このような考えの持ち主が、数年後には医師として働きはじめるわけです。
難しいことはたくさん知っているけれど、本当に患者のためを想う医療ができるのでしょうか。
医師は生涯学習の職業だといわれます。しかし医師に限らずとも、向上心なくしては人として成長できないのではないでしょうか。

大学で与えられた課題をこなすことは、幸い私には難しくありませんでした。しかし、同じ学生たちの考えがさっぱりわかりません。たしかに彼らは頭がいいでしょう。でも、話は全然合いません。試験や実習を楽に乗り切る話しかしない人たちと一緒にいると、気分が落ち込む一方でした。

体調を崩すなら学校を休めばいいじゃない

実習は座学と違うから続けられるかもしれない、という淡い期待は一瞬で打ち砕かれました。結局、学校に行けたのは3分の1程度。このまま無理して実習を続けても、この出席率ではどの診療科でも単位認定は難しいでしょう。

本来なら2年で終わる実習に、数年かけて挑み続けるという選択肢もありました。ただ、足取り重く学校へ向かい、帰宅しては倒れこんで泣き喚く、という日々を過ごすことになります。

これまでの経験上、学校から離れれば元気になることは明らかでした。その上、医師になることに嫌悪すら感じていたのですから、いっそ学校をやめて医師以外の道を探そう、と即決したのも自然なことだったかもしれません。

とはいえ私はうつ病患者の身。退学という重要な決断をいますぐにすべきではありません。
そこで、先延ばしにするための、休学という選択肢を選んだわけです。

これから何をしようか

休学を決めてから、一気に心が軽くなりました。
既に次週からの実習は欠席すると連絡してあります。やっぴー。

数日間は十分な睡眠を取って休養するつもりです。
そのあとは、農業のアルバイトをしようかなと考えています。
第一次産業には以前から興味があったのですが、小学生の芋掘り体験くらいの経験しかないですから、触れてみる絶好の機会です。

他にも、せっかく自由な時間ができたのですから、いろいろ教養を身につけたいですね。たとえば、将棋を覚えたり、読書をしたり、言語を学んだり。文章を書くのも好きなので、これからnoteの投稿を続けられたらいいなと思っています。

医学部を目指すかたへ

医学部に入学する人には、医師を目指している人、受験の都合で選んだ人、とりあえず医師免許が必要な人、などがいます。
私自身は、医学に興味はあるし、進路指導で文句を言われるのはめんどくさい、という理由で医学部を選びました。

医学を学ぶことは楽しかったです。人体の構造や仕組みを隅から隅まで細かく知るという、とても探求心をくすぐられる科目です。ひとつのことを突き詰めるのが好きな人にとって、ぴったりの学問です。

注意すべきなのは、医学部は「医師養成システム」であるということです。
大学という側面から、研究部門を熱心に勧める先生もいらっしゃいます。しかし、医学部を卒業したあと医師として働かない人は、現実にはほんの僅かです。そのため、医学部の学生になると、医師以外の道へ進むことを許さない雰囲気に飲まれてしまうことでしょう。

でも、医師にならないという選択肢があることは知っておいてください。
もしそうなれば、たくさんの人が「もったいない」と言うでしょう。自分でも「もったいない」と思うかもしれません。

もしあなたが、つらい思いをしているなら、本気でやりたいことがあるなら、医師になりたくないと思ったら、道はほかにもあります。傍から見れば逃げているように見えても、あなたが前に進めるのなら、違う選択をしてもいいじゃないですか。

頭脳やお金も、たしかに「もったいない」かもしれません。でも同じくらい、あなたの意志を無下にすることは「もったいない」ことです。

おわりに

自分の人生、何が正しいかなんてわかりません。後悔することになるかもしれません。それでも私は、前向きに生きていける道を選ぶことに決めました。

もうきっと医療の道へは戻ってこないと思いますが、医学を学んだ4年間がいつかの日に活きると信じています。

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