鏡のない世界で  0.


僕は声が出ない。

おそらく先天的なものだろう。記憶のある限り自分の声を聞いたことはない。
耳に異常はないので言葉の理解はできているが、会話はできないのだ。
だが不思議と、それを苦痛に思ったことも、相手に伝わらず悲しかったり、歯痒いと思ったこともない。

そして僕は、外に出たこともない。

12帖ほどの広さである直方体の中が、僕が存在する世界だ。
僕にとって、向こう側の世界は窓に映るものがすべてで、世界が広いというのはもはや漠然とした概念でしかない。
やはりこれも、外に出たいとか、辛いと感じたことはない。

だって僕は、1人じゃない。



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