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鎌倉の大仏

一人でロングツーリングに行くようになって、周りの人によく聞かれることの一つに、家族に文句を言われないのか、というのがある。この件に関しては、家族に感謝するしかない。
一人旅の楽しさは、行ってみないとわからない。その楽しさを知ってほしかったので、以前、妻に、一人で旅行に行ってみたらどうか、と勧めてみた。こういうのは、自分の中のタイミングがあるので、勧められたからすぐに行けるものではない。
そして、去年、妻は、初めて一人旅に出た。行先は、鎌倉。電車と徒歩の旅。湘南、江ノ島、鎌倉をあちこち歩きまわって、良い景色を見て、おいしいものを食べてきた。バイクツーリングとは全然違う旅だった。旅の話を聞くのは楽しかった。
その話の中で、妻が、鎌倉の大仏がとてもよかった、と教えてくれた。意外だった。私は、鎌倉の大仏が有名なのは、由緒正しき歴史のおかげで、鑑賞することより、訪れることに意味があるものだと思っていた。その大仏が、心の底から感動するほどよかった、と妻は言った。本当にすごいものは、そのすごさをうまく説明するのがとても難しい。たいていの場合、すごかった、を連呼するしかない。妻は、私に鎌倉の大仏のすごさを説明するときに、すごかった、なんかこう、すごかった、なんかねー、すごかった、と言っていた。鎌倉の大仏がすごい、というのは、よくわかった。写真も見せてくれた。本当にすごいものの写真は、たいていの場合、そのすごさが全然伝わらない。写真に写っているのは、見たことのある鎌倉の大仏だった。とにかく、行く価値はある、と、妻は力説した。
というわけで、今、私は鎌倉の大仏の前に立っている。
鎌倉の大仏は、すごい。
すごいのは、大きさではなくて、全体のバランスというか、完成度というか、とにかくすごいので、うまく説明できない。完璧、というのは、これのことを言うのだと思った。どこをどう見ても感心するしかなかった。なんかこう、すごい。あのー、なんというか、すごいんですよ。
ツーリングから帰って、鎌倉の大仏はとてもよかった、と妻にお礼を言った。それを聞いた妻が、天気のことを聞いた。曇っていた、というと、残念そうな顔をした。そして、大仏を見上げたときに、その向こうに青空が広がっていると、それはそれは素晴らしいものだ、と教えてくれた。

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