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地元感覚

ロングツーリングに行く、となると、目的地は、なんとなく遠いところにしてしまう。普段は行けないような、遠いところに行くんだ、と。では、普段でも行けるようなところに、普段は行くのか、というと、行かない。いつでも行けるのに、わざわざ今行かなくても、とか、その気になったらいつでも行ける、とか言いながら、行かない。結局、その気になる日は、ずっと来ない。
私は、大学生の時、京都に住んでいた。その間、金閣寺も、清水寺も、嵐山も、行かなかった。北海道には、三回も行った。今は、就職して、京都を離れた。大学生の時は、いつでも行けるから、といって行かなかった京都の観光地は、いつでも行けるところではなくなった。そうなったら、京都に観光に行くようになったか、というと、そんなことはなかった。いまだに、金閣寺と、嵐山には、行ったことがない。清水寺には、子供が小さい時に、帰省したついでに一回行った。
ああ、そうか。地元が大阪で、年に1~2回帰省するので、そのときに、その気になったらいつでも行けるのか。実際、たまたまその気になったら、清水寺には行けた。さっき、その気になる日は、ずっと来ない、と言ったけど、訂正します。その気になる日は、めったに来ない。とにかく、京都の観光地は、その気になれば行ける、と、今でも考えているらしい。
らしい、と、他人事のように言っているのは、今までそんなことを考えたことがなかったからで、そんなことを初めて考えたのが、今回のツーリングの予定を立てようとしているときだった。年に二回ほどロングツーリングに行くようになって数年が経った。いろんなところを見て回った。春には、今住んでいる静岡周辺もツーリングした。まだ行っていないところはどこだろう、と、地図を見てみたら、関西エリアがスカスカだった。どうやら、その気になったらいつでも行ける、と、無意識に、目的地の候補から外していたらしい。大阪、京都で暮らした期間よりも、静岡で暮らした期間の方が長くなったというのに、いつまでたっても地元は地元だ。
そして、今、その気になった。前に、その気になって清水寺に行ったとき、娘はベビーカーに乗っていた。今は、大学に進学して、家にいない。さっき、その気になる日は、めったに来ない、と、言ったけど、私の場合、その気になるのは、二十年に一度くらい、らしい。二十年に一度の現象は貴重なので、奈良、大阪、兵庫、京都、滋賀、と、近畿地方を全部回ることにした。え?和歌山?和歌山はね、いいんです。4年前に、ツーリングしてました。同じ近畿でも、和歌山は、その気になったらいつでも行ける、の圏外みたいです。あと、京都にツーリングには行くけれど、市街地をわざわざバイクで通る気にはならないので、金閣寺には、今回も行きません。次に、その気になったときに、行くことにします。その時、私は、まだ元気だろうか。
その気になったので、ツーリングのルートを立てようと、いつものように、まずはマップルを見た。普通のマップルには、食べ物と買い物のことしか載っていなかった。そして、マップルドライブ関西は、他の地方と比べると、全体的に元気がなかった。
関西をドライブするんですか?ほんとに?どうしても?いや、別にやめろとは言いませんよ。こっちもプロですから、一応用意はしますけど、でも、こんな感じになっちゃいますねー。
編集の人の、そんな声が聞こえる気がした。関西にツーリングに行ってないのは、その気になればいつでも行ける、と思っていたから、じゃなくて、単純に、ツーリングで行くところがなかったから、かもしれない。そうはいっても、観光地が全くないわけでもないので、とりあえず、見つけたところを、地図の上に並べてみた。
それから、マップルの観光地とは別に、行きたいところがあった。大阪や京都に住んでいる友達とは、帰省した時に、今でも一緒に遊んでいる。でも、同じ関西でも、少し離れたところに住んでいる友達は、もう20年以上会っていなかった。そんな友達が、奈良に一人、京都北部に一人いた。年賀状は書いているので、住所はわかった。観光地を並べた地図に、友達の住所を加えた。まるで、観光地の一つみたいに、違和感なく収まった。
せっかくだから、会いに行こう。
久しぶりに会うんだから、ゆっくり話がしたい。ここを宿泊地にしよう。そうやって、地図をじっと見ていると、だんだん、ルートが浮かび上がってきた。

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