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世界一の橋

蓬莱橋は、世界一長い木造歩道橋、として、ギネスブックに載っている。そのわりに、マップルには、小さい記事が載っているだけだった。
大井川にかかる木造の橋は、平らで、まっすぐで、飾りも、工夫も、何もなかった。それが良かった。
橋の欄干が低いおかげか、橋の上は、とても開放感があった。当たり前だけど、橋の右も左も大井川だった。幅の広い川の真ん中に立つと、視界をさえぎるものが何もなかった。360度のパノラマビュー、というのは、高いところに行かないとみられない、と思っていた。そうでもなかった。低いところから見るパノラマビューも、とても良かった。
両側に大きく開けた視界の真ん中をまっすぐに伸びる木製の橋は、ひたすらに清々しかった。起伏のないまっすぐな橋は、希望に満ちた未来につながっている気がした。一歩踏み出すたびに、背筋が伸びた。途中で止まって、景色を眺めてもいいのに、足が止まらなかった。健やかに、歩き続けてしまった。
橋を渡りきると、そこには、山があった。橋の先の道は、遊歩道になっていて、山の中へと続いていた。道端の看板に、遊歩道の見どころが紹介されていた。ここまで、実に爽快に蓬莱橋の上を歩いてきたのに、ここから、薄暗い林の中を歩こう、という気にはならなかった。ならなかったけど、少し歩いてみた。蓬莱橋を見下ろす高台に出た。離れてみる蓬莱橋は、思ったよりも小さかった。蓬莱橋は、見るものじゃなくて、渡るものだ。
世界一長い木製歩道橋は、渡っても、その先には、何もなかった。そのまま引き返した。橋を渡った先に何もない、というのは、橋としての役目が気になるところだけど、蓬莱橋は、渡るものだ。だから、これでいい。
帰り道も、もちろん平らでまっすぐだった。この橋は、希望に満ちた未来につながっている。蓬莱橋の上を歩いている限り、誰でも順風満帆だ。
橋を往復したら、橋の入口のところの茶屋に、897.4という数字が大きく書いてある看板があった。橋の長さだ。いくらでも、元気よく歩けてしまうので、全然実感はわかないけれど、橋を往復すると、ほぼ2キロ歩くことになる。橋を歩いて往復するだけ、と思っていたのに、駐車場に戻ると、けっこうな時間が過ぎていた。橋の上では、あんなに順風満帆だったのに、ツーリングの予定は、ずいぶん遅れてしまった。

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