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だから行ってしまう

濃溝の滝は、最近、注目を浴びている観光スポットだ。
理由は、洞窟の中を流れる滝があって、洞窟の入り口に滝つぼがあって、しかるべき日時にそこに行き、好天に恵まれると、洞窟の向こうから差し込んだ日の光が、滝つぼに反射して、洞窟の光と水面の光が重なって、ハートの形に光るから、です。
なぁーにがハートだ。
何でもかんでもハートに見える、って言っておけばいいと思っているやつが、きっと、どこかにいる。何人もいる。最近は、こういうのを聞くと、簡単にあしらわれているみたいで、なぜか、無性に腹が立つ。だいたい、しかるべき日時にそこに行って、好天に恵まれないと見られない、というのも、引っかかる。俺はな、知ってるぞ。そういうところはな、条件がそろっていない時はな、どこでそんな写真が撮れるのか想像もできないくらいに、話が違う景色しか見えないことになっている。
でも、行く。ぶつぶつ言いながら、行く。
そーです、私が、ただのめんどくさいオジサンです。
 
駐車場から、濃溝の滝までの遊歩道には、テレビが取材に来た、という紙が、いくつも貼ってあった。5分ほど歩いて、濃溝の滝に着いた。洞窟、というか、岩壁に開いた穴の中を、滝、というか、流れの急な渓流が流れていた。しかるべき日時ではないので、もちろん、ハートの形には光ってなかった。
でも、きれいな景色だった。
滝つぼは、ほとんど流れがなくて、浅い池のようになっていた。その奥の洞窟は、手前に木が生えていて、少し隠れているのが、ちょうど良かった。このまま、かたちを小さくして、家のどこかに飾っておきたくなるような景色だった。どこかのすごい職人が、本物の苔や石を使って、水が流れる濃溝の滝の卓上用の模型を作ってくれないかな、と思った。静かで落ち着く、見ているだけで、心が和やかになる景色だった。
たまにはこういうこともあるから、ぶつぶつ言いながら来てしまうんだな。

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