見出し画像

GOTOトラベルと私

今年の7月にツーリングに行った時は、コロナ禍の真最中だった。ツーリングは、自分にとっては大事なことだけど、他の人にとってはどうでもいいことだ。不要不急の用事で他県に行くな、と言われているのに、そんなどうでもいい用事で、県境を越えて動き回るのは、なんとなく後ろめたかった。一人でバイクに乗ってウロウロしても、濃厚接触者は0のはずだから、ソロツーリングは自粛対象外、というガイドラインを政府の方で公的に設けてくれないだろうか、と、冗談で思ったりした。
10月になっても、状況はほとんど変わらなかった。それはそれとして、GOTOトラベルキャンペーンが実施された。冗談で言っていた公的な許可が出たわけだ。おかげで、後ろめたいのは、少しマシになった。
でも、GOTOトラベル自体は、なぜか素直に喜べなかった。お前ら庶民は、補助金出したら、普段は行けない旅行に喜んでいくだろ、と言われている気がした。GOTOトラベルしてもいい、という公的な許可の部分は、都合よく利用させてもらうことにして、補助金の方は無視することにした。利用方法がよくわからないし、行政のやることだから、案内も不親切だった。わかりにくい利用方法を調べて、ちまちまと申請するのは、現金を足元に投げ捨てられて、旅行に行きたかったらそれを拾え、と言われているみたいな気がした。とにかく、あまり関わりたくなかった。
ツーリングの準備は、普段通りに進めた。普段通りにマップルを読み込んで、普段通りにルートを組み立てた。そして、普段通りに楽天トラベルで宿を予約したら、GOTOトラベルクーポンというものが発行された。そのまま手続きを進めると、冗談みたいな金額が画面に表示された。何か間違えて、条件の限定された変なプランを申し込んだんじゃないか。不安になって調べてみると、GOTOトラベルが適用されて、35%オフになったのがわかった。
とりあえず、予約は無事にできているみたいだった。5000円くらいの宿泊費が、3000円ちょっとになっていた。こんなに安くなるとは思っていなかった。GOTOトラベルで宿泊すると、宿泊地近辺で使える1000円のクーポンも発行された。計算してみると、全部で13000円ほどの補助金をもらうことになった。私にとって、13000円は、大金だ。感謝すべきところだ。
でも、ごめんね。なぜだか、やっぱり、素直に、ありがとう、って言えないんだ。
庶民の私は、13000円あげる、と言われたら、受け取ってしまう。一方で、コロナ禍の中で、自分よりも切実に13000円を必要としている人がいるのも知っている。本来なら、そういう人たちに手に渡るはずだった補助金を、都合よく横取りしているような気になった。そんなに言うなら募金しろよ、と言われるだろう。でも、募金しない。ただ、うつむいて黙っている。足元に投げ捨てられた現金を拾わずにいたら、その現金を無理やり手に押し付けられて、庶民の私には、それを地面に落とすこともできない。それを見透かされたような気分だった。
 
今回のツーリングで、こんなことがあった。
ツーリング中に、あるレストランで夕食を食べた。レジに行ったら、青色のGOTOトラベルのステッカーが貼ってあった。GOTOトラベルのキャンペーンサイトから登録店を探したときには、このレストランは表示されなかった。どっちが正しいのか、わからなかった。店主に、クーポンが使えるのか聞いた。店主は、GOTOイートにも登録しないとキャンペーンサイトには載せてもらえなくて、申し込んであるけれど、登録が遅れていて載っていない、と申し訳なさそうに教えてくれた。店主によると、GOTOトラベルも、ステッカーやポスターは届いたものの、クーポンを換金する方法は、何も案内がない、とのことだった。こうやってクーポンを現金代わりにしているけれど、本当に現金化されるのかどうかはよくわからなくて、たぶん大丈夫なはず、と思ってやっている、とこぼしていた。店主は、まだまだ言いたいことがたくさんありそうだった。クーポンを使ったせいでお店に迷惑をかけたような気がして、適合にモゴモゴと相槌を打って、逃げるようにして店を出た。
GOTOトラベルのクーポンは、使用に際して、いろいろと制限があった。次の日までに使わないといけないし、使えるエリアも、クーポンが発行された県と、その隣接する県に限られていた。紙のクーポンだと、左下に押してある県名のスタンプが、そのエリアに相当すたる。私は、次の日までしか使えない、というのは知っていたけど、エリアが限定されているのは知らなかった。コンビニでクーポンを使用した時に、店員さんが、エリアも大丈夫なので使えます、と言ったのを聞いて、なにが大丈夫なんだろう、と調べて、初めて知った。
でも、エリアのことを知らない、というのは、私がそんなに特別だとは思わなかった。GOTOトラベルのステッカーは日本中のお店に貼ってあるから、旅先でもらったクーポンを地元に持って帰ろう、と思う人は、少なくないだろう。その結果、普段の買い物に使おうとして、エリアが対象外なので使えません、と言われて、がっかりしている人は、けっこういるんじゃないだろうか。
あのレストランの店主は、エリアのことを知っているだろうか。私がクーポンを渡したときは、日付しか確認していなかったような気がした。遠くの県で発行されたクーポンを、間違って受け取ってしまってないだろうか。オジサン、それは大丈夫じゃない。
やっぱり、GOTOトラベルは、素直に喜べなかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?