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カンノワノナノクニノオウ

真っ暗な部屋の中央に、ガラスのケースが一つだけ置かれていた。その中で、スポットライトを受けた、小さな四角い黄金が輝いていた。映画だと、予告状とともに、華麗な泥棒が盗みに来るやつだ。その暗い部屋の中には、小さな四角い黄金以外には、何もなかった。この展示物のことを知らないものなど、日本にいない。そんな自信が見て取れた。
漢委奴國王印。かんのわのなのくにのおう。小学校の社会の教科書のスター選手。埴輪や土偶の土まみれの時代に、純金の輝きとともに現れ、その見た目のインパクトの強さとともに、妙に歯切れがいいけど全然意味が分からない呪文のような響きであるうえに漢字が6個も並んでいるので高尚に思えてしまう名前が、全ての小学生の記憶に刻まれる。子供のころは、勝手に、金印の大きさは5cm四方くらいだと思っていた。実物は2cm四方くらいだった。
金印が小さくて、部屋が暗いので、視力に不安のある方は、メガネが必須だ。私も最近老眼がひどくてねえ、暗いところだと、なーんも見えん。老眼鏡持ってきてよかった。ガラスに額をこすりつけるようにして、じっくりと見ました。
福岡で発見された太古の昔の金印は、福岡市博物館に展示されている。私にとっては、福岡市博物館は、金印が見られる場所、でしかなかった。博物館なので、他にもいろいろあると思うけど、他に何が展示してあるのかは、知らなかった。
福岡市博物館も、その辺は、心得ているようだった。博物館に入って一つ目の部屋が、あの、真っ暗な部屋だった。じっくりと時間をかけて、金印を見学して、暗い部屋を出た。その先には、金印の解説の部屋があった。そして、その先は、福岡市にまつわる様々なものが展示されていた。博物館の入場料は200円で、JAFの会員だと、50円引きだった。漢委奴國王印を見たら、コストパフォーマンスは十分だ。入って一つ目の暗い部屋から、そのまま引き返して、入口から出ていっても、何の不満もない。もちろん、そんな失礼なことはしなかった。普通に、先に進んだ。金印は、もう見たので、余裕の見学となった。
なるほど。
もったいぶって、金印の展示を、博物館の最後にしてしまうと、金印を見るためだけに福岡市博物館に来ているような私のような客は、まっしぐらに金印に向かって駆け抜けてしまって、途中の展示は全然見ない。一人だけ強すぎるスター選手を抱えつつ、チームとしての博物館を成立させないといけない福岡市博物館の苦労を垣間見た気がした。

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