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予備の観光地

今日は、午後から雨になる、と天気予報は言っていた。
今も、天気予報は、そのうち雨が降る、と言い続けている。
だがどうだろう。
今、走っている道路の右側の海の上の空は、雲が多いなりに青空が見えていた。日差しも、温かかった。天気予報は外れたけれど、雨の予報が外れるのは、何の問題もなかった。この2日間、天気予報を見てジタバタしたけど、結果、雨に降られることは、ほとんどなかった。無駄にジタバタしただけのような気もするけれど、ここは、うまく切り抜けた、ことにした。予定では、今頃は、雨に降られる予定で、早めにホテルに帰るつもりだった。雨が降っていなければ、早く帰る理由もなかった。寄り道することにした。
備瀬のフクギ並木に着いたときには、雲も、ずいぶんと少なくなって、晴天だった。フクギ並木というのは、フクギという木が、両側にたくさん生えている歩道のことで、マップルで見たときの印象は、こういうと失礼かもしれないけれど、あまり、パッとしなかった。雨が降っていたら、来るつもりもなかった。
バイクを止めて、駐車場から歩き始めると、すぐに、フクギ並木が始まった。フクギは、幹の周りに、短めの枝と、厚みのある丸い葉っぱが密集して生えている木で、こういうと失礼かもしれないけれど、樹形を愛でるような類の木ではなかった。生け垣にするのに具合がよさそうで、実際、ここでは、生け垣として使われていた。その生け垣が、道の両側に、ずっと続いていた。フクギの生け垣の裏側には、沖縄らしい、背が低くて、頑丈そうな家が、少しだけ見えた。それは、普通の民家だから、要するに、フクギ並木は、普通の民家の路地裏、ということになる。そして、こういうと失礼かもしれないけれど、普通の民家の路地裏は、マップルで見たときに想像したとおりに、あまり、パッとしなかった。
駐車場には車がたくさん止まっていたのに、フクギ並木を歩いている人は、全然いなかった。気が付くと、一人で、静かな路地裏を歩いていた。ふと見上げると、濃い緑色のフクギの生け垣に切り取られた、青い空が見えた。
沖縄だ、と思った。
沖縄に来て3日目。バイクに乗っている距離は、普段のツーリングより短いはずなのに、一日が終わると、普段のツーリングよりも疲れていた。その理由が、ずっと、わからなかった。フクギ並木から空を見上げたら、その景色が、ちょうど良かった。もしかしたら、いちいち絶景な沖縄の景色に、疲れていたのかもしれない。絶景疲れ。沖縄、おそるべし。これくらいの景色が、ちょうど良かった。
静かで、パッとしなおとなしい風景の路地裏を、引き返す理由がない、というだけで、ふらふらと、先に進んだ。フクギ並木の終点は、海だった。そこには、普通のきれいな海があった。空は晴れていて、波は穏やかで、素晴らしく、普通だった。砂浜に下りるところに、コンクリートの階段があった。階段の端に、壁があった。壁のところに、小さな日陰ができていた。日陰に腰を下ろした。波の音が心地よかった。横の壁は、もたれかかるのに、ちょうど良かった。そのまま、少し昼寝した。

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