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親切とサービス

昭和新山の駐車場にバイクを止めた。係のおじさんがやってきて、200円です、と言った。おじさんは、どこから来たの、と言いながら、バイクのナンバープレートを見た。そして、今年の北海道は、天気が悪くて残念だね、とつけ加えた。
今回のツーリングも、今までと同じように、ツーリングの2週間前から、現地の週間天気予報を毎日見ていた。確かに、北海道は、2週間前から、ずっと天気が悪かった。北海道には梅雨がないって聞いてたのに。北海道では、今年みたいに天気の悪い日が続くのは珍しいみたいで、この後も、ツーリングをしている間、いろんな人が天気の心配をしてくれた。
200円を払うと、おじさんは、ロープウェイ乗り場は奥にある、と教えてくれた。駐車場の正面に、有珠山と、その山頂に向かうロープウェイが見えた。ロープウェイの上の方は、雲の中に隠れて見えなかった。おじさんは、こういう天気は、蝦夷梅雨って言って、低気圧が出てくると、太平洋側は悪い天気が続くんだよ、と教えてくれた。北海道には、梅雨はないけど、蝦夷梅雨は、ある。一つ、勉強になった。
昭和新山の写真を撮って、トイレに行った。トイレは、ロープウェイ乗り場の近くにあった。ついでに、ロープウェイ乗り場を覗いてみた。さっき山頂の天気を見たので、ロープウェイに乗るつもりはなかった。駐車場の前に並んでいる土産屋は、昭和から営業しているようなお店ばかりなのに、ロープウェイ乗り場は、真新しかった。チケット売り場の横に、モニターがあった。有珠山山頂からのライブ映像が映っていた。洞爺湖を見下ろす景色が見えた。さっき駐車場から見たときは、何も見えなさそうだったけど、そうではないみたいだった。ロープウェイの料金は、1800円だった。
チケット売り場のブースに、メガネをかけた若い男の人が座っていた。チケットを買う前に、上は景色が見えますか、と聞いてみた。男の人は、売り場の横のモニターを見て、今は晴れてます、と言った。知ってる。それは、私もさっき見た。それ以上は何も聞かずに、チケットを買った。チケットを受け取るときに、今日は風が強いので運休になることがあります、と、言われた。それは、下りてこれなくなるかもしれないということですか、と聞いたら、それはありません、という答えだった。次のロープウェイの出発は、10分後だった。ロープウェイは、普通に運転していた。
駐車場の奥から出発したゴンドラは、高度を徐々に上げながら、昭和新山の前を横切っていった。最初は下から見ていた昭和新山を、真横から見て、最後は、上から見下ろした。そんなふうに山を見たのは、初めてだった。乗ったことはないけれど、ヘリコプターから山を見下ろすと、こんな感じなのかもしれない、と思った。上から見下ろすと、昭和新山は、いびつな形をしていて、山というより、こぶみたいに見えた。
山頂に着いた。ゴンドラを下りて、展望台へ向かった。展望台は、真っ白で、何も見えなかった。今は曇ってます、と、チケット売り場の人は言うだろう。やっぱり、駐車場から見上げたときの有珠山の山頂は、何も見えない状態だったらしい。
せっかく山頂に来たので、何も見えないのがわかっていても、有珠山の火口を見に行った。階段の、上る先の景色は真っ白だった。上りきった先で、有珠山火口原展望台、という看板以外は、何も見えないのを確認した。それから、洞爺湖が見えるはずの展望台に戻った。ロープウェイを下りたときと同じように、真っ白なままだった。駐車場で見たときは曇っていて、ロープウェイのチケットを買ったときは晴れていて、今は、曇っている。間もなく、ロープウェイが出発します、という、アナウンスが聞こえてきた。洞爺湖が見える方向を見たまま、展望台で、じっと待った。ゴンドラが、下りていくのが見えた。しばらくすると、さっきよりも、周りが白くなってきた。ツーリングの、次の予定があった。いつまでも、待っているわけにはいかなかった。ロープウェイが出発します、というアナウンスが聞こえてきた。ロープウェイ乗り場に向かった。
駐車場に戻って、有珠山の方を見た。雲が晴れて、展望台が見えた。今は晴れてます、と言われたような気がした。それは、私にもわかった。ヘルメットを手に取った。バイクのメーターの横に取り付けた時計を見たら、予定よりも、30分ほど早かった。そういえば、マルトマ食堂に行かなかった分、時間が余っていた。普段は、確認するまでもなく、時間は、いつだって、足りない。今は、ツーリング中だから、普段とは違う。そういうのは、とっとと、そこらへんに捨ててしまわないと。

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