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吊橋と安全基準

今回のツーリングのルートを考え始めたとき、メインの観光地は安倍の大滝にするつもりだった。でも、安倍の大滝への行き方を調べているときに、別のことが気になってしまった。
安倍の大滝までは、駐車場から山の中の道を40分ほど歩くことになる。それなりの距離で、上り下りも多いので、それはそれで大変だけど、この道には、それとは別の、大変なことがあるという。それは、駐車場を出て少し行ったところにある吊橋で、これが渡れなくて引き返す人がわりといる、らしい。調べれば、吊橋の写真はすぐに見つかるけれど、確かに、なかなかのビジュアルだった。万が一でも落ちたらけっこうなことになるはずなのに、吊橋ってこんな感じで大丈夫じゃね?、という、ゆるいノリが伝わってきた。チャームポイントは、足場の板がまっすぐに並んでなくて、とりあえず置いてみた、みたいに、ガタガタになっているところ。電車のホームですら落下防止の扉が付くような昨今では、なかなか目にすることが難しいリスク管理物件でございます。素晴らしい。自己責任。正しく使えば世界が100倍楽しくなるミラクルワード。間違って使うとアメリカみたいになりますが。
そんなイカした吊橋があるのを見たら、吊橋に興味が向いていしまった。安倍の大滝に向かうルートは、R1で安倍川まで行って、そこから川沿いにさかのぼる形になっていた。調べてみると、安倍川やその近くには、他にもいくつか吊橋があった。そのうちの一つ、藤代奥の吊橋は、そっち方面では、レベルが高いことでそれなりに名が通っているみたいだった。川沿いを走っていると、細いワイヤーで作ってある吊橋を時々見かけるけど、アレ、人が通れるのもあるんですね。知らなかった。ということで、観光のメインは安倍の大滝、は変わらないけれど、ツーリングのサブテーマは、吊橋巡りになった。
渡った吊橋は全部で3つ。中平の吊橋と、安倍の大滝の吊橋と、藤代奥の吊橋。どれも、ダメな人は絶対ダメな感じの、足元スカスカでユラユラな吊橋だった。そういう吊橋をわりと平気で渡れてしまったのが、自分でも意外だった。高いところが苦手、という意識はなかったけど、もう少しビビると思っていた。
藤代奥の吊橋は、そっち方面で名が通っているというのもあって、3つの中では、一番アレだった。まず、足場が細い。両足揃えて立つと、足がちょっとはみ出るくらい。そんな、まっすぐ歩かないと大変なことになるような細い足場なのに、橋自体が少し横に傾いている。横に傾いているのは、まっすぐ歩きにくい、という危険性と、本当は傾けたくなかったはずなのになぜ、という不安の2方面で、ドキドキさせられる。だいたい、吊橋のあるところは、誰も来ないような山奥で、吊橋を渡った先も、どこに行くのかわからないような獣道みたいな山道で、ワイヤーも錆び錆びだ。見た目は大丈夫そうだから自己責任で渡ったけど、安全が確保されているような雰囲気は、全然なかった。
私は、仕事上、安全に関するのとか、環境保護に関する法規に関わることがあるけれど、藤代奥の吊橋とそれらの法規は、温度差がものすごくある。IT関係の法規なんか、作った方も何言ってんのかよくわかってないんじゃないかと思うくらいにアレもコレも全部ガチガチなのに。見ろ、この吊橋を。なんかだんだん斜めになってきちゃった、とか言ってんぞ。足場の鉄板も針金で止めてるし。ITはダメだけど、こっちは、これでいいのか。
かねてから疑問に思っていたけれど、いろんなことを規制する法規を作るのは、我々市民の安全を守るため、じゃなくて、罰金稼ぐため、なんじゃないだろうか。税金ちょっと高くしただけで国民からブーブー文句言われるくらいなら、大企業からごっそり罰金取った方が簡単、って、どこかの頭のいい人が気が付いたんだよ。だから、どうやって守ればいいのかわからないような法規を作って、どれだけ金を取ってもあまり困らなさそうな企業から、定期的に罰金を取ってるんだ。時々、ニュースで、GAFAMみたいな大企業が何十億円という罰金を課せられた、というのを見ても、金額の大きさはニュースになるけれど、法規を破るような企業はけしからん、みたいなことは、誰も言ってないみたいだ。
そこまで考えたとき、昔読んだ本に載っていた、イギリスの駐車違反の話を思い出した。いつも決まった時間になると、駐車違反のところにトラックを止める宅配業者がいました。駐車違反はダメなので、その時間になると、お巡りさんもいつもそこにやってきます。で、宅配の人は、いつものように、駐車違反のところにトラックを止めて、いつものようにお巡りさんのところに行って、やあ元気か、今日は調子はどうだい、みたいな世間話をして、じゃあこれ違反切符、はいこれ罰金、というところまで、いつも同じようにやっている、という話。
こんなところにトラックを止めたら周りの交通の邪魔になるからやめたまえ、じゃないんだな。罰金払えば、違反してもいい、って感覚らしい、欧米の人達って。そういえば、こないだ読んだ法規も、こんなのどうすりゃいいんだってくらいややこしかったのに、罰金は妙に安かったもんな。これなら、法規守るよりも罰金払った方が安いんじゃないか、と、同僚と冗談を言い合ってたけど、正直なところ、当局の狙いはどっちなんだろう。
さて、どんなに油断しても安全なくらいに保護された生活はつまらない、という話を書こうと思ったのに、ただの仕事の愚痴になってしまった。もう、吊橋からもずいぶんと離れてしまって、戻れそうにない。これといったオチも思いつかない。吊橋の話なので、オチないのは良いことだ、とさせてください。


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