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遭難とUFOライン

石鎚スカイラインを一番上まで上がって、土小屋に着いた。駐車場は、バイクと車であふれかえっていた。UFOラインに向かう道は、駐車場の中央を通っていた。ゆっくり進むと、駐車するところを探しているらしい車が、脇からヌルヌルと出てきた。ブレーキをかけて止まった、。ハンドルを握るオバサンの後頭部が見えた。
7年前とは、ずいぶん印象が違う。

7年前の四国ツーリングでも、石鎚スカイラインを走った。あの日は寒かった。山頂の小屋に着いたときは、駐車場から小屋が見えないくらいの濃い霧に包まれて真っ白だった。駐車場には、他の車は一台もなかった。山で遭難した時に幸運にも建物を見つけたような気持ちで、山小屋に避難した。いかにも登山のための小屋、という感じの地味な店内で、ストーブの横に張り付くように座って、生姜湯をすすった。7年前に、そうやってここにたどり着いたときは、UFOラインなんていう道はなかった。少なくとも、私は知らなかった。ツーリングマップルを見ても、白い道が山の中をひょろひょろと通っているだけだった。山小屋の人に、この先の道は舗装されていますか、と聞いたのを覚えている。山小屋の人は親切で、道を丁寧に説明してくれた。あらかじめコピーしてあった手書きの地図もくれた。そこから先の道は、細くて、霧が出ていて、とても走りにくかった。10mくらいしか先が見えない中、本当にこの道で合っているのかと不安になるような細い道を必死で進んだ。標高が下がって、霧が晴れたときには、脱出したような気分になった。

私がUFOラインのことを知ったのは、つい最近で、それも、四国のどこかにある景色の良い道、ということしか知らなかった。今回、ツーリングのルートを考えているときに、UFOラインが石鎚スカイラインの先にあるのを知った。地図で石鎚スカイラインを見たときにすぐに思い出したのは7年前の脱出のことだった。7年前にUFOラインのことを知っていたら、そっちを走ったのに。最初は、そう思った。でも、ルートを考えるために、何回も地図を見ているうちに、あの細い山道がUFOラインであることがわかった。わかった、と言っても、場所からすると、あの道がUFOライン、ということになる、という事実に気がついただけだ。かろうじて舗装してあるだけで、少しでも油断したら谷底に落ちてしまいそうなあの道が、観光地なわけがない。事実は事実としてそういうことかもしれないけれど、それを信じることはできなかった。歯を食いしばって走ってなんとか脱出したあの道は、景色が良いから、という理由だけで、気軽に行けるようなところではないはずだ。実際、7年前は、他の車はほとんどいなかった。あんな道に観光客がたくさんやってきて、他の車としょっちゅうすれ違うなんて、地獄だ。

そして今、私は、車とバイクであふれかえった山頂の駐車場で、脇見運転の車に進路をふさがれている。信じられなかった事実は、やはり事実だった。7年前の試練の道は、UFOラインという有名な観光地で、週末は、観光客であふれかえる。
右の駐車場から出てきて、私に後頭部を見せつけているおばさんは、こちらに一度も顔を向けないまま、道を横切って、左の駐車場に消えてくれた。混みあう駐車場を脱出して、先に進んだ。
こんなに多くの観光客が来るのなら、もしかしたら、霧の中を走った心細さが記憶を歪めて、実際よりも悪い印象になっているのかも、と思ったが、それはなかった。UFOラインは、記憶の通り、細くて、頼りない道だった。そして、私の予想通り、たくさんの車とバイクと自転車が通るUFOラインは、地獄のように走りにくかった。7年前のような心細さはないけれど、楽でもないし、楽しくもなかった。すれ違うバイクや車の人達も、楽しそうには見えなかった。7年前の頑張った思い出に、余計な種明かしをされたような気分で走った。
もしかしたら、7年前の方が、楽しかったかもしれない。


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