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豪雨とトラック

2016年に四国にツーリングに行ってから、7月半ばと、10月末の、年に2回のロングツーリングが恒例となっている。毎年、7月のツーリングの前には、日本のどこかで、豪雨による災害が発生する。今回は、熊本の球磨川が氾濫した。そして、10月末のツーリングの前には、なぜか、季節外れの台風が、あり得ない角度で日本にやってくる。一昨年は、台風が日本海側までやってきた。そして、どのツーリングでも、もれなく、一日は、通常であれば外出を控えないといけないような豪雨の日がある。
人は、私がツーリングに行くときは必ず雨だ、と言う。そう言われたときは、私がツーリングに行くから天気が悪くなるのではなくて、そういう時期にたまたまツーリングに行っているだけだ、と言い返している。でも、もしかしたら、私は、世間一般で、雨男、と称されるタイプの運命を背負っているのかもしれない。最近は、そんなふうに思うようになった。少し、悲しい。それでも、受け入れてしまえば、たくましくもなる。最近は、ツーリング中に雨が降っても、それほど嫌だと思わなくなってきた。
でも、だからと言って、ツーリング中に、豪雨に見舞われたときに、
「そうそうこれこれ!この、ホースで水を浴びせられているような中を走らないとツーリングに来た気がしないよね!」
と思うような心意気には、ならない。絶対に、ならない。なりたくない。なるもんか。くそ。雨男、かもしれない、かなあ、って思ってるだけだもん。
アクアラインを抜けて、高速で横須賀に向かう時が、その、豪雨の時だった。
東京湾沿いの高速道路で、工場の間を走り続けた。途中で、目の前の煙突の一つが不完全燃焼を起こして、断続的に炎を噴き上げているのが見えた。ダークなSF映画の中に入り込んだような気分になった。ダークなSF映画では、こういう景色の中、うんざりした顔で車を流す主人公がかっこよく見える。実際にそのシーンに入り込んでしまうと、うんざりするだけだった。自分がかっこよくなった気はしなかった。
高速道路なので、周りに迷惑をかけないためには、ある程度のスピードは維持しないといけなかった。でも、この天気の中、ボルティでスピードは出すのは、あまり気が進まなかった。バックミラーを気にしながら走行車線を走って、追いつかれそうになったら、ちょっと左に寄って、速やかに追い越してもらうのを繰り返した。
平日の高速道路を通行しているのは、ほとんどがトラックだった。何台ものトラックに追い越された。どのトラックも、遅いバイクに追いつくと、バックミラーに映る景色がトラックのフロントグリルだけになるくらいに、車間を詰めてきた。トラックは、運転席が高いから、普通に運転すると、そうなるのは知っていた。悪気がないとわかっていても、プレッシャーが強くて疲れた。
歯を食いしばって走っていると、バックミラーの中に、オレンジ色のトラックが小さく見えた。そのうち追いつかれるのだろう、と思いながら走った。走りながら、時々、バックミラーを見た。いつ見ても、そのオレンジ色のトラックは、バックミラーの中で、小さいままだった。広い車間をキープしたまま、私の後ろを走り続けた。
そんな状態が、しばらく続いた。そのオレンジ色のトラックが後ろを走ってくれている間は、他の車が私の後ろにつくことはなかった。まるで、オレンジ色のトラックに見守られているような気がした。
横須賀のちょっと手前で、オレンジ色のトラックは高速を降りた。そのトラックの運転手が、どういうつもりで、ああいう運転をしてくれたのかは、わからなかった。ただ単に、普段から車間を広くとって運転する人なのかもしれない。雨の中、バイクがふらふらしているのが怖くて近寄りたくなかったのかもしれない。もしかしたら、見守ってくれていたのかもしれない。
伝わらないとは思ったけれど、別れ際に、感謝の気持ちを込めて、左手を振った。

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