とても天気の良い夏の日
ツーリングの最後に、久遠寺を観光して、帰路に着いた。
いつもなら、もうツーリングが終わるのか、という寂しさと、やりきった、という充実感に浸るところだけれど、今回は、それに加えて、一つの偉業を成し遂げたことを喜ばしく思う自分がいた。
今回のツーリングでは、雨が降りませんでした。パチパチパチパチ。ありがとうございます。ありがとうございます。遠足は、家に帰るまでが遠足です。まだおうちに着いていないので、引き続き気を引き締めて走る所存ではございますが、今日の天気予報、および今のこの天気から推測しますと、この先、家に帰るまで、雨は降らないでしょう。雨が降らなかった、のところに、当確の赤いリボンをつけたいところでございます。
2016年に四国に一週間のツーリングに行って、それから毎年ツーリングに行っているけれど、雨が降らなかったのは、今回が初めてだった。いや、厳密にいうと、初日と2日目に、5分くらいパラついたときがあったけど、あんなものは雨とは呼ばん。もちろん、自分を信じていない私は、雨を3粒浴びた時点で速やかにレインウェアを身に着けましたが、もっと自分を信じてあげればよかった。そうしたら、自分史上初のレインウェアを着ないロングツーリング、という、象徴的なことが言えたのに。
とにかく、私が、何らかの屋外イベントに参加する際に、一般的な確率よりも高い確率で降雨に遭遇する傾向が強いとされる特性の持主、通称、雨男、分類されるのではないか、という疑惑は、これでなかったことになるだろう。なかったことにしたい。今回のこの偉業には、会社の連休が七月末になったことにいち早く気づき、梅雨明けを読み切って一週間のロングツーリングを計画した私の好判断も大きく寄与しているであろう。ナイス俺。グッジョブ俺。
そんなふうに、好天のツーリングを見事なしえた私にも、読み切れなかったことがあった。7月末は、真夏だ、ということだ。天気が良いことには、もちろん、何の文句もない。ああ、文句なんて何もない。だから、どんなに天気が良くても、暑いなんてことはない。ああ、暑いなどという文句が出るはずがない。天気が良いのに、暑いなんて文句を言ったら、次の瞬間に雨が降りそうで、心配で仕方がない。だから、ツーリング中は、絶対に暑いとは言わなかった。
普段は、真夏にはあまりバイクに乗らない私は、今回のツーリングで、天気が良い真夏のツーリングと、雨のツーリングには、天気が正反対なのに、共通することがいくつかある、という発見をした。
一つは、休憩するときに、屋根がないと困る、というところ。雨の日は、屋根がないところでバイクを止めても、ただ濡れるだけで休憩にはならない。天気の良い真夏だと、屋根のないところでバイクを止めても、ただ暑…くはないけど、体力は回復するというより削られる一方で、全然休憩したことにならない。体力が回復しないだけじゃなくて、削られる、という意味では、暑…いんじゃなくて、真夏の天気の良い日の方が、屋根が必要かもしれない。
それと、休憩が終わった後のヘルメットが厳しい、というのも似ている。雨の日は、ヘルメットをかぶるとき、雨が染みこんだ内装に顔をベロリと舐められたような屈辱的な気分になる。真夏だと、ヘルメットの中が余熱の済んだオーブントースターのようになっていて、ただでさえ暑…くはないけど、とにかく、熱いヘルメットをかぶると、罰ゲームをやっているような気分になる。違う、今は暑いって言ってない。熱いって言ったんだ。だからセーフ。
そんなツーリングの4日目のこと。そろそろ休憩したい、と思って、屋根のあるところを探しているときに、具合よく見つけた道の駅で休憩した。エアコンの効いた店の中に入ると、アイス用の冷凍庫があって、中にガリガリ君があった。真夏のツーリングで、たまたま立ち寄った店でガリガリ君が売っていたので、それをかじりながら休憩する。これこそ、真夏のツーリングのだいご味、と言えるかもしれない。ガリガリ君を手にして、店を出た。屋内にも休憩するところはあったけど、あえて屋外の日陰へ行った。真夏のツーリングのだいご味としてガリガリ君を食べる、というのは、そういうことだろう。
駐車場の隅の東屋から、駐車場と、その向こうの景色を眺めて、ガリガリ君を食べた。駐車場には、ボルティが止まっていた。駐車場のボルティを見ても可哀そうに見えないところは、雨の日と違った。すると、駐車場に、バイクが一台、入ってきた。よく手入れされた、古いバイクだった。ライダーは、革ジャンを着ていた。重そうな、黒のシングルのライダースジャケット。バイクは、革ジャン。そういうことだ。革ジャンはバイクによく似合っていて、バイクもライダーもカッコよかった。でも、よくこんな暑いのに革ジャンなんか着られるな。あ、暑いって言っちゃった。
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