四国を走る
閑定の滝を見た後、県道259を通って土釜に行くルートをカーナビにセットしようとした。でも、ヤフーカーナビは、経由地をどう設定しても、県道259をルートに入れようとしなかった。地図の上には、通行止めを示す赤いバツ印は見当たらなかった。県道259は道幅が狭くて通りにくいから、気を使ってくれているようだった。でも、道が狭いから、と言っていては、四国は走れない。ヤフーカーナビにはいつもお世話になっていて、心遣いはありがたかったけど、この人は、こういうところが少し頑固だったりする。ヤフーカーナビに悪いと思いつつ、グーグルマップでルートを検索した。グーグルマップは、あっさりと県道259をルートに入れた。
閑定の滝を出て、数km進んで、県道259に入った。まもなく、土砂崩れで工事中、という看板が見えて、道は行き止まりになった。グーグルマップのナビを止めて、ヤフーカーナビを立ち上げた。さっきは信じてあげられなかったのに自分勝手だ、と少し気が引けたけれど、ヤフーカーナビだって、行き止まりなのを知っていて赤いバツ印を出していなかったのだから、私だけが悪いわけじゃない。
土釜までのルートを検索すると、R492を戻って、R192で西へ向かうルートが表示された。ここまで、R192の北側から、R492をずっと走ってきた。そのまま戻るのは、つまらない。途中で西に向かう県道255を経由地に追加してみた。県道255も狭そうな道だったけれど、ヤフーカーナビは、すんなり受け入れてくれた。
R492を北へ数km走って、県道255に入ろうとしたら、工事中の看板が見えて、道は行き止まりになった。ヤフーカーナビも、ここの通行止めのことは知らなかったらしい。通行止めの看板の前に、警備のおじさんが立っていた。看板の前でエンジンを止めた。おじさんが、こっちまでやってきてくれた。西に向かいたい、というと、迂回路を教えてくれた。R492を南に少し戻ったところに、首野という看板の出ている分岐があって、そこにも警備の人がいる、とのことだった。その人のことは覚えていた。ここに来る途中で見た。どう見てもその先はどこにも通じていないようにしか見えない細い脇道の入口に、目の前のおじさんと同じような格好をしたおじさんが、パイプ椅子に座っていた。首野、という地名と、深い山の中に向かう細い脇道と、その入り口にたたずむ目的不明の警備員の姿が印象的だった。あの人、不用意に脇道に入ろうとする人を止めていたんじゃないのか。目の前のおじさんは、道を説明しながら、後ろの看板のところに貼ってある小さな地図を指さした。手書きの地図には、くねくねと曲がるR492が書かれていて、首野、という字が大きく書いてあった。首野でR492から逸れた迂回路は、そこまでの道と比べると、ずいぶん簡単な線で書いてあった。ここから首野までと比べると、かなり短く見えた。
R492を南に少し戻って、パイプ椅子に座っているおじさんを目印に、首野から迂回路に入った。その先は、入口の様子から想像していたとおりの細い道で、想像以上に曲がりくねっていた。もし、バイクじゃなくて車を運転していて、この道を迂回路として案内されたら、少し怒っていたかもしれない。想像以上だったのは、曲がりくねっていることだけじゃなかった。距離もずいぶん長かった。さっき見た迂回路の地図は、確かに、正確に描こうとはしているようには見えなかったけれど、それでも少しくらいは距離の長さも再現していてほしかった。この先がどこかに通じているとは思えない深い山の中の曲がりくねった狭い道を延々と進んで、これだけ走ってもどこにもたどり着かないということはどこかで道を間違えたんじゃないか、と思いながらカーブを曲がると、その先に、長いまっすぐな下り坂と、その向こうに警備員の格好をしたおばさんがいるのが見えた。
下り坂の先のT字路を左に曲がって、無事、県道255に入ったときは、脱出したような気分がした。でも、それは、道を間違えずに迂回路を通り抜けた、というだけだった。県道255は、さっきよりも少し道幅が広い以外は、さっきまでと同じように狭くて曲がりくねった道だった。でも、それはわかってて、県道255をルートに入れた。文句はない。四国を走る、というのは、そういうことだ。
スケール感がおかしくなるような大きな岩が転がる土釜を観光して、土々呂の滝に向かった。そのルートは、ツーリングマップルに、何の色も塗られていない白い道として描かれていた。色の薄い細い線で描かれたくねくねと曲がる道は、同じようにくねくねと曲がる等高線に溶け込んで、どうなっているのかよく見えなかった。それでも、そのほとんど見えない道のところに、
「県道未通部を結ぶ狭いが爽快な舗装林道」
というコメントが書いてあった。道が狭いのが当たり前の四国の地図に、わざわざ狭いと書いてあるところが少し気になったけど、爽快と感じる人がいるのであれば、そんなにひどくはないはずだ。とにかく、舗装されていれば何とかなる。
その読みは間違っていなかった。土釜から土々呂の滝までの道は、普通に走れた。少なくとも、さっきの迂回路と比べれば、ずいぶんと快適だった。あるいは、四国を走ることに慣れたのかもしれなかった。
土々呂の滝親水公園を通り過ぎて、灌頂院の駐車場にバイクを止めた。土々呂の滝親水公園よりも、こっちの方が土々呂の滝に近い、とインターネットで誰かが教えてくれた。PaypayのQRコードが備え付けてある賽銭箱に実物の10円玉を入れて、この先のツーリングの無事をお祈りした。その先の、少し長めの階段を下りたところに、土々呂の滝があった。写真を撮って、滝を眺めた。
しっかりと滝を眺めた後で、ツーリングマップルをバッグから取り出した。土々呂の滝の周りには、白い道しかなかった。ツーリングマップルでは、複雑に入り組んだ白い道がどこにつながっているのかを、ちゃんと確認できなかった。見ようによっては、このまま白い道を西に向って、県道44に出られそうにも見えた。うまく行けば、かなりショートカットができる。うまく行かなかったら、白い道を延々と進んで、また、白い道を延々と戻ることになる。うまく行く気は、しなかった。四国を走るというのはそういうものだ、とわかっていても、手が出なかった。ここは、遠回りになっても、白くない県道256で北へ向かって、R192から県道44に入る方が確実だ。ヤフーカーナビも、きっとそうするだろう。スマホを取り出した。ツーリングマップルの白い道の先の山の中の滝の前にも、ちゃんと電波は届いていた。灌頂院の賽銭箱にPaypayのQRコードが備え付けてあったのを思い出した。目的地を、落合集落展望所に設定して、ルートを検索した。すると、ヤフーカーナビは、土々呂の滝の滝から西に向かう、複雑に曲がりくねった一本の道を表示した。それは、ツーリングマップルでは何がどうなっているのかよくわからなかった白い道のうちの一本だった。そうか、やっぱり君もそう思うか。四国を走るってのは、そういうことだよな。
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