見出し画像

孤独のグルメに挑戦だ

片道20分の遊歩道を往復して、神威岬の駐車場に着いたら、急に腹が減った。今日の昼食は、通りがかりのコンビニで適当に済ませるつもりだった。でも、なんだか、無性に、ウニ丼が食べたくなってきた。予定では、明日、ウニ丼を食べることになっているけど、今食べたい。確か、神威岬の周りには、ウニ丼が食べられる店がたくさんあるって、マップルに書いてあった。思い出したら、余計に、ウニ丼が食べたくなってきた。これは、そういうことか。幸福に空腹を満たすべく、自分勝手で自由になるのは、今なのか。
ゴロ~、ゴロ~、イッノッガシッラ、フゥ~。
 
まずは、店を探そう。神威岬の周りの店って、何軒くらいあるんだろう。とりあえず、東に向かって、走ってみるか。
お、神威岬を出て、すぐのところに、一軒あった。車が、何台か止まっているな。この先にも、何軒かあるだろうから、もう少し行ってみよう。海沿いを走って、トンネルを抜けたら、小さな町があるぞ。道路沿いには、確かに、何軒か、食事ができるところがあるな。神威岬の周りに店が何軒かある、っていうのは、ここのことなのかな?よくわからないな、もう少し先まで行って見るか。
ああ、海沿いの景色がきれいだ。この辺りは、学生の時に、ツーリングで来たなあ。あれは、94年のことだから、もう28年も前か。つい最近まで、学生時代は、20年前だ、と思っていたのに、気が付いたら、もう30年前だ。そんなに前のことなのか。もう、いろいろ忘れちゃったけど、覚えていることもあるぞ。確か、28年前も、この辺で、ウニ丼を食べたはず…。お!見つけた。あの店だ。海の家みたいに小さい店に、見覚えがある。こんなところにあったのか。ここでウニ丼を食べられたら、最高なんだけどな。扉に張り紙がしてあるな。本日は時化で漁に出られないのでお休みです、か。そんなにうまくは行かないか。この先は、しばらく何もなさそうだし、さっきの町に引き返すか。
さて、どこにしようか。ゴローさんと違って、バイクだと、ゆっくり店が探せないな。こういうときは、安全策だ。あの、一番立派な店にしよう。
店の中は、けっこう混んでるな。人気の店なのかな。入口に、梅宮辰夫が来店した時の記念写真が飾ってある。カウンターに座って、さて、ウニ丼は…、赤ウニ丼7980円!うわ!高い!なんだこれ。今どきのウニ丼は、そんなに高級なのか。28年前は、そんなことなかったけどな。どうしよう、これは無理だ。隣に、白ウニ丼ってのがあるけど、4950円か。これも、高いなあ。妥協して出せる金額じゃないぞ。まいったな、ウニ丼はやめだ。こっちの海鮮丼は、何だ。一日限定20食、積丹元祖7色丼(ウニ増量タイプ)。これも4950円か、高いなあ。でも、限定って書いてあるし、割安なのかな。お客さん、たくさん入っているし、もう残ってないかもしれないけど、あったら、これにしよう。
すみません、この7色丼って、まだありますか。あ、あるんですか。じゃあ、一つください。
どれもこれも値段が高くて、なんだか緊張するな。限定、って書いてあったから、勢いで海鮮丼を頼んじゃったけど、よく考えたら、白ウニ丼と同じ値段じゃないか。俺は、ウニ丼が食べたかったんじゃないのか。だったら、白ウニ丼の方が、良かった気がする。…。あっ!ウニ増量タイプ、って書いてあったから、すっかり、赤ウニが食べられるつもりになっていたけど、そんなわけないじゃないか。同じ白ウニ食べるんだったら、やっぱり白ウニ丼にすればよかった。
それにしても、次から次に、お客さんが来るな。みんな、立派な店構えにつられて来ちゃうんだな。俺と一緒だ。あ、あの人、7色丼頼んだ。俺と一緒だ。お、あっちも7色丼だ。そういえば、俺が店に入ってから7色丼、けっこう出ているぞ。カウンターに座っていると、オーダーが全部聞こえるからな。あ、また、7色丼だ。あといくつ残ってますか、って、聞いてるな。確かに、いくつ残ってるんだろ。え、大丈夫です、ってなんだよその返事。これは、数えてないな。だまされた。7色丼は、限定じゃないぞ。
ああ、腹が減った。腹が減ったのに、海鮮丼が、全然出てこない。カウンターの奥には、出来上がった海鮮丼が、たくさん並んでいるのに、誰も取りに来ない。これは、運ぶ人の数が足りてないんだな。ああ、目の前においしそうな海鮮丼がたくさん並んでいて、こんなに腹が減っているのに食べられないなんて、これはどういう罰ゲームだ。俺は、何を失敗して、罰ゲームを受けているんだ。値段が高いのを見たときに、店を出なかった時点で、負けたのか。なんだか、腹が立ってきた。あと5分待って、海鮮丼が出てこなかったら、オーダーキャンセルして脱出しよう。
って思ったら、すぐに出てくるんだよな。そんなもんだ。いただきます。ええ、おいしいです。海鮮丼はね、おいしいですよ。ウニも、ちゃんと多めに乗っているし。たぶん白ウニだけど。味に不満はありません。でも、なんか違うんだなあ。ゴローさんみたいに、空腹が幸福で満たされている感じがしない。幸福っていうより、後悔だな。やっぱり、値段を見たときに、店を変えるべきだった。とりあえず、空腹は満たされたので、行くか。
あれ、店の中にいる間に、ずいぶん天気が悪くなったな。とりあえず、走ろう。次の目的地は、ここから、もっと東に向かって、積丹半島の一番北に突き出しているところにある、島武意海岸だ。R229は、ずっと海沿いだけど、さっきの方が天気が良かったな。天気がいいうちに走っておけばよかった。お、こんなところにも、ウニ丼の店があるのか。ここにもあるぞ。うわ、あの、みさきって店は、駐車場が大変なことになってるな、って、オイ!ウニ丼の店、他にもたくさんあるじゃないか。こんなことなら、先に島武意海岸まで走って、観光してから、ウニ丼にすればよかった。あー、雨が降ってきちゃったよ。最悪だ。予定にない店に寄って、無駄に待ち時間の長い海鮮丼を食べたせいだ。
さて、島武意海岸に着いたぞ。ここの駐車場の横にも、食事処があるのか。メニューが貼ってあるな。白ウニ丼、3000円。うん、値段も、そんなもんだよな。それが、食べたかった。
俺は、何やってんだ。島武意海岸に先に来てれば、ここでウニ丼食べて、幸福に空腹を満たして終わりだったのに。できもしないのに、自分勝手に自由を気取るから、こういうことになるんだ。だいたい、俺は、いつもこうなんだ。気ままな一人旅、みたいなのをやろうとすると、いつもうまく行かないんだ。だから、予定をちゃんと立てて、予定通りに旅行していたのに。やっぱり、孤独のグルメは、幻なんだ。いや、そういう考え方は良くない。反省はいいけど後悔はするな、って、学生の時にお世話になった人が教えてくれた。あれも、もう30年も前の話なのか。
どうやら、腹が減ると、まともな判断ができなくなるみたいだ。まずは、空腹に惑わされないことだ。そう考えると、腹をすかしたまま延々と店を探し続けるゴローさんはすごいな。今の俺には、孤独のグルメは早すぎたみたいだ。でも、これであきらめたら、いつまでたっても今のままだ。気ままな一人旅を気取っては、いつもうまく行かない、って言っているってことは、俺だって、いつかは、気ままな一人旅をやってみたい、ってことだろう。何回も、あきらめたふりして、あきらめきれなくて、同じ失敗を繰り返すくらいなら、少しずつ、うまくなってやろうじゃないか。今なら、ゴローさんというお手本もある。まだ、シーズン1の3話しか見てないけど。
それはそうと、雨が降っていると、落ち着いて観光できないな。景色もいまいちだし。レインウェア着て、さっさと出発するか。
ゴロ~、ゴロ~、イッノッガシッラ、フゥ~~。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?